日経メディカルのロゴ画像

呼吸器専門医は見た!こんな現場、あんな質問

第1回
呼吸器科専門医が少なすぎる滋賀県
溢れる患者を前に悩んだ末、行き着いた策とは

2015/07/17
長尾大志(滋賀医科大学呼吸器内科)

 日経メディカルOnlineをご覧の先生方、はじめまして。滋賀医科大学呼吸器内科の長尾大志と申します。このたびこちらで連載記事を担当させて頂くことになりました。連載を始めるにあたり、少しばかり身の上話を。

 私はちょうど10年前の2005年から、滋賀医科大学で教員をしています。理由は分かりませんが、私が赴任する2年前まで、滋賀医大には呼吸器内科講座がありませんでした。呼吸器疾患に関する教育がどのようになされていたかは分かりませんが、私が着任する前は、他科の先生方の手を借りて行われていたと聞いています。

 そんな滋賀医大に、私は講座の立ち上げ要員として3人目の呼吸器内科医として着任したというわけです。押し寄せる患者さん、口を開けて待つ医学生、多くの業務に追われながら、徐々にあることに気づいたのでした。

 この地域には、呼吸器の知識を持った医師が少ない……。

 患者さんの紹介を受けたときに、つい首をかしげてしまうような診断、治療がされていることが多く、逆紹介しようとすると医師からは「○○の患者さんは、うちではちょっと…」と言われることが続く日々だったのです。

派遣もできず、育成には時間が掛かる
 呼吸器内科の講座がなければ当然、専門医もいません。ましてや、滋賀県下の主要な病院に呼吸器内科医を派遣することなどできるはずもありません。基幹病院には近隣の府県から、たまたま?派遣されていた呼吸器専門医がいましたが、患者さんが多すぎて激務となり、若手を教育するところまで、手が回っていなかったのではないかと推察しています。

 呼吸器内科医が猛烈に少ないこの状況を打破するために、自分にできることは何か――。1つは優秀な呼吸器内科医を1人でも多く育てることです。呼吸器の面白さ、奥深さを学生や若い医師に伝え、呼吸器内科を目指す人を増やすこと。大学病院にもかかわらず、呼吸器疾患を診断・治療できる医師が足りない、医師を派遣できない状況を、できるだけ速く解消しなければならないという使命を感じました。

 しかし、呼吸器内科医の育成には年単位の時間がかかります。滋賀医大の卒業生でも、当医局に入局する医師は年に数人。すぐに増えるものではありません。そこで、非専門医の先生方に呼吸器の知識をできる限り広める、ということも同時に取り組めないかと考えたのです。

様々なところに出向いて解説
 それからは地域の研究会や勉強会に積極的に顔を出し、医学生や研修医の教育を始めて地域の「呼吸器診療スキル」を上げていこうと試みました。当初、吸入ステロイドを使っている医療機関は県下でも少数派(!)でしたが、10年経った今ではかなり普及してきています。また、卒前教育の際に抗菌薬を選ぶ際の正しい考え方や使用法を教えることで、地域の基幹病院で市中肺炎の第一選択としてカルバペネムを使う、といったことは少なくなってきたように見受けます。こうした経験を通して、やはり知識や情報を広く伝えていくことは大事だな、と実感しています。

 そこで、2010年末頃から毎日ブログを書き始めました。当時の私は、知識をお伝えする手段としてブログぐらいしか思いつかなかったわけですが、始めてみると学生や若手の先生方、学内の呼吸器内科以外の先生方から「見てます」「役に立った」という声がポツポツ寄せられるようになりました。しばらくすると、全国の呼吸器専門医がいない施設の先生方、研修医の皆さん、学生さん、看護師さん、理学療法士さんはじめ多くのメディカルスタッフの方からもこうした声を聞くようになりました。

 ブログをきっかけに声を掛けていただき、各地で講演や本を出版する機会が増えてきました。そこで分かったことは、全国的に呼吸器、感染症、アレルギーといった領域で、「信頼できる、わかりやすい」情報が切実に求められているということです。良質な情報は山ほどあるにも関わらず、それが分かりやすい形ではなかったりすることで、広まっていないというのが現状なのだろう。そう、私は思っています。

 そこで今回やらせて頂く連載「呼吸器専門医は見た」では、これまで多くの非専門医の先生方、若手研修医の皆さんからいただいてきたいろいろな質問や治療失敗例を基に、非専門医の先生方が陥りがちなポイント、質問内容を取り上げ、できるだけ分かりやすく紹介していきたいと思っています。どうぞよろしくお願い申し上げます。

著者プロフィール

長尾大志(滋賀医科大学呼吸器内科)●ながお たいし氏。1993年京都大学卒。京都大学胸部疾患研究所で初期研修。住友病院、ブリティッシュコロンビア大学留学などを経て、2005年より現職。11 年から始めた自身のブログ「やさしイイ呼吸器教室」をベースにした書籍『レジデントのためのやさしイイ呼吸器教室』を13年に刊行した。

連載の紹介

呼吸器専門医は見た!こんな現場、あんな質問
「呼吸器疾患の鑑別方法は?」「薬剤はどう使い分ける?」「どうなったら専門医に紹介すべき?」——。プライマリ・ケア医が抱くこうした疑問に、 紹介患者のエピソードを基に大学病院で診療する著者が答える連載です。非専門医に向けて明日から役立つ呼吸器疾患の診断・治療のコツを分かりやす く解説します。

この記事を読んでいる人におすすめ