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第32回
ながい黄昏-シシリアン・ガンビットの分類

2019/08/01
村川 裕二(帝京大学溝口病院)

 「抗不整脈薬」は、不整脈を治療します。
 不整脈はいろいろ。
 薬もいろいろ。
 1980年前後に、次々と新薬が出ました。
 そこで、「テキセツに薬を選ぶヒント」のための「分類」が提案されました。
 今回は、抗不整脈薬の分類の話です。

抗不整脈薬とはなにか

 心臓の筋肉の電気的性質を変化させます。
 2つ。
 ○伝導速度を下げる
 ○興奮しにくくする
 反対向きの「伝導速度を上げる」とか「興奮しやすくする」のは、抗不整脈薬の仕事ではありません。
 なぜ、不整脈が起きなくなるか?
 「興奮がグルグルまわる」のを邪魔するのが主なメカニズムです。

抗不整脈薬を使うと興奮するか

 薬で「ぴたっと頻拍を止める」→気持ちがいい。
 初めてだと興奮します。
 「やった」と言いたいです。
 心房がらみの頻拍より、心室の頻拍は重症度が高めです。
 頻拍を「薬で何とかする」ことができないと→危険な気配→電気ショックが用いられます。
 自分にも電気が流れそうで怖かった〜。同僚に通電パドルを手渡す役目をやっていました。

最初の分類

 ヴォーン・ウィリアムズ(Vaughan-Williams)分類が、1970年ごろから使われています。
 「<ガラス針をプチッと心筋細胞に刺して記録した活動電位>にどう影響するか」に基づいた分類です。
 ○伝導性への作用
 ○活動電位持続時間への作用
 ……などの要素で、4群に分けられています。
 すぐに世界中に広がりました。

ヴォーン・ウィリアムズ分類の綻び

 1967(昭和32)年……。
 石原裕次郎は、「オイラはドラマー」と歌いながら映画に出ていた。
 その後しばらく、
 お笑い(コメディアン)・歌(ミュージシャン)・俳優の3要素で分けたとき、「歌+俳優」のみミックス可能でした。
 やがて、藤田まことと植木等が「お笑い+俳優」の道を開きました。
 さらに、1997年にいかりや長介が『踊る大捜査線』で元刑事を演じて、「歌+お笑い+俳優」の3種混合が成立しました。
 この歴史的経緯から、ジャンル分けが難しくなっています。
 抗不整脈薬も同様に、「心室のみに効くIb群」のアプリンジンが心房にも有効。
 最初はIc群だったシベンゾリンがIa群に移動。
 アミオダロンはグチャグチャの「鵺(ヌエ)キャラ」で、むりやりIII群に入れてもらいました。I群、II群、Ⅲ群、IV群いずれの性質も持っているのに、です。
 「整合性欠乏がもたらす割り切れなさ」に耐えられなくなって、新しい抗不整脈薬の分類が望まれました。

誰がどこで

 欧州心臓病学会が、専門家をイタリアのシチリア(シシリー)島に集めました。
 その島で合宿。
 薬理学、生理学、臨床の知見をソーゴー的に集約したシシリアン・ガンビット(Sicilian Gambit)分類が1991年に報告されました(Circulation.1991;84:1831-51.)。
 リポートの冒頭に……。
 「チェスのクイーンのガンビットとは、その後の多彩な攻撃を可能にするための最初の光る一手」と書いてあります。
 「シシリー島で作った不整脈診療を切り開く道しるべ」なので、シシリアン・ガンビットの名前が付けられました。
 格好よかったです。ブリリアントな将来が期待されました。

シシリアン・ガンビットの構造

 抗不整脈薬が下記の4点にどう影響するかというリストです。
 ○細胞膜でのイオンの流れ
 ○自律神経
 ○心機能や心拍数
 ○心電図
 くっきりしたグループ分けは狙わず、約20個の薬剤の性質をズラッと並べています(『不整脈薬物治療に関するガイドライン(2009年改訂版)』6ページ参照)。

著者プロフィール

村川裕二(帝京大学附属溝口病院第四内科・中央検査部教授)●むらかわゆうじ氏。1981年東京大学卒。83年同大第二内科入局。89年関東中央病院内科、91年東京大第二内科助手を経て2003年帝京大附属溝口病院第四内科助教授。04年同教授。16年中央検査部教授を兼務。

連載の紹介

村川裕二の「ほろよいの循環器病学」
某医学雑誌で10年以上、循環器病学の連載を続けてきた筆者の名コラムが、場所を移して“新装開店”。堅い話になりがちな最新医学の話題をゆるゆる、まったり解説。穏やかな語り口に引き込まれながら、読みふけってしまう。肩肘はらず、グラスを傾けながら、たそがれ時のお供に。イラストも筆者のオリジナル。

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