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第28回
もう逢えない??僧帽弁狭窄症のこの頃

2019/04/01
村川 裕二(帝京大学溝口病院)

 「もう逢えないかもしれない」という曲。
 1985年、菊池桃子。
 グリコ・ポッキーのCMに使われました。
 黄色いセーターを着て、駅を発つ電車を追いかける姿がカワイかった。
 YouTubeで見てください。
 TBSのザ・ベストテンで最高3位。
 そんなわけで……。
 今回は「もう逢えないかも知れない弁膜症」のお話。

どんな病気

 それは僧帽弁狭窄。
 左房と左室の間にあるのが僧帽弁。
 ローマ法王がかぶっている帽子に似ています。
 この弁が硬くなると→動きが悪くなって→左房から左室への血流が損なわれます。

何が不都合か

 僧帽弁がスイスイ開かないと、左房圧が上昇。
 そして、肺静脈圧も上がる→肺血管のうっ血→呼吸が苦しい。
 肺動脈、右室、さらに全身の静脈圧も高くなります。

犯人はひとり

 95%以上は溶連菌感染によるリウマチ熱が原因。
 リウマチ熱は子どもの病気。
 関節痛、発熱、心臓の炎症、けいれん様の動きが特徴です。
 50歳未満の小児科医は、ほとんど「見たことない」。
 リウマチ熱が治っても、やがて僧帽弁狭窄が起きます。
 ときに大動脈弁狭窄も。

小出先生の教え

 研修医の頃……。
 母校の北病棟3階の医師勤務室。
 机の上には、少年ジャンプとか少年サンデーが山積みになっていました。
 カルテを書くスペースの確保に手間がかかる。
 病棟医長の小出(こいで)先生は漫画雑誌をロッカーの上に片付けながら……。
 「リウマチ性弁膜症は必ず僧帽弁。大動脈弁だけやられることはない」と教えてくださいました。
 僧帽弁狭窄の症状が現れるのは「平均25歳」。
 「洞調律の僧帽弁狭窄にジギタリスを出してはいけませぬ」
 「ジギタリスで心拍数を下げて、僧帽弁狭窄の狭い通り道を血液が通り抜ける時間を確保するのだよ」
 「だから、洞調律で心拍数が普通ならジギタリスを使う意味がない」なんて話が続きました。
 狭窄した弁の先にある左室にはダメージは起きないです。
 これはときどき試験に出ます。

リウマチ熱でなぜ僧帽弁狭窄か

 リウマチ熱が好発するのは「5~15歳」。
 「僧帽弁の表面組織」と「溶連菌の抗原」が近似している人だと、溶連菌への抗体が弁膜組織に対して交差反応を生じます。
 この「とばっちり的免疫反応」→無菌性心内膜炎→やがて僧帽弁狭窄。
 なるかならぬかは、生まれつきらしい。
 「免疫システムが溶連菌にビビッと反応する」ことが必要なので、「免疫機能が未熟な3歳以下の子ども」ではリウマチ熱は生じにくい。

なぜ珍しくなったのか

 もう、日本ではバリバリの僧帽弁狭窄は発症しないです。
 リウマチ熱が壊滅したからです。
 平成になって、ほんのポチポチ。
 1年に10人くらい。
 「抗菌薬のおかげで溶連菌がいなくなった」と素直に思い込んでいました。
 ところが、現在でも子どもの咽頭からは溶連菌は検出されています。
 じゃあ、なんでリウマチ熱が消えたのか……。
 ●「抗菌薬が広く使われる→溶連菌はパワーが落ちた」のと、
 ●「集団生活の低年齢化→早くから溶連菌に出逢う→ゴタゴタを起こすほどのフレッシュな溶連菌との出逢いにはならない」
……という感じの説明を見つけました(西村龍夫先生のコラムより)。
 抗菌薬を使うと、「耐性菌が増えて厄介」とばかり思っていたけど、別な視点もありました。

なぜNOACを使わないのか

 僧帽弁狭窄の重症度を決めるのは「僧帽弁口のサイズ」。
 正常は4cm
 2cm2あたりから症状が出ます。
 ところで、「心房細動+僧帽弁狭窄」には、最近たくさん使われるプラザキサ(一般名ダビガトラン)などの非ビタミンK拮抗経口抗凝固薬(NOAC、直接経口抗凝固薬=DOACともいう)ではなく、古典派のワルファリンを使います。
 なぜだろう?
 僧帽弁狭窄では、左房血流のよどみ↑、凝固レベル↑、左房壁の粗さ↑が、他の疾患よりも高まります。
 複数の凝固因子に作用して「ワイルドに抗凝固作用を発揮する荒っぽいワルファリン」の方が、「ワンポイントで効くスマートなNOAC」より結果を期待しやすいのでしょうか。

著者プロフィール

村川裕二(村川内科クリニック院長)●むらかわゆうじ氏。1981年東京大学卒。83年同大第二内科入局。89年関東中央病院内科、91年東京大第二内科助手を経て2003年帝京大附属溝口病院第四内科助教授。04年同教授。16年中央検査部教授を兼務。20年村川内科クリニック開院。

連載の紹介

村川裕二の「ほろよいの循環器病学」
某医学雑誌で10年以上、循環器病学の連載を続けてきた筆者の名コラムが、場所を移して“新装開店”。堅い話になりがちな最新医学の話題をゆるゆる、まったり解説。穏やかな語り口に引き込まれながら、読みふけってしまう。肩肘はらず、グラスを傾けながら、たそがれ時のお供に。イラストも筆者のオリジナル。

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