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第10回 C. difficile
手指衛生、ちゃんとやってるのに、一体何が…

2017/05/24
森兼 啓太(山形大学医学部附属病院感染制御部・検査部)

 私の勤務する山形県での麻疹の集団発生は、結局60人ほどの患者が診断されてひとまず終息しました。接触者として健康観察下におかれた人は3700人に上ったそうです。県や市町村の保健福祉部局の方々は本当にご苦労されたのだと思います。

 前回は結核を取り上げました(関連記事:結核?まさかね~ いや、でも…)。今でも日本で年間1万8000人以上が新規に結核と診断されていると聞いて、驚いた人も少なくなかったのではないかと思います。一般人でも知っている感染症の代表格ですが、過去の病気になりつつあると思わないでいただきたいというのが前回のメッセージでした。

 今回は、一般人があまり知らない病原体であるクロストリディウム・ディフィシル(C. difficile)を取り上げます。グラム陽性桿菌に分類される嫌気性菌で、健常人の5~10%程度が保菌していますが、保菌者の大多数は腸内細菌叢の1つとして保菌しているにすぎません。C. difficileが下痢症を発症するためには、腸内細菌叢が攪乱されてC. difficileが優勢になることと、C. difficileが毒素産生株であることの2つの条件が揃うことが必要です。

 一方、ひとたび発症すると、感染症としてはやっかいな部類に入ります。まず、C. difficileは抗菌薬に対する感受性があまり良くなく、治療の選択肢はバンコマイシンとメトロニダゾールなどに限定されます。さらに、本連載のメインテーマである院内感染対策上、大きな問題になりうることです。これについては後述します。

 一般人があまり知らないということは、医療者にとってもありふれた病原体(疾患)ではない――ということになりそうです。皆さんの施設では、「C. difficile感染症と診断された症例がしょっちゅういる」という状況ではおそらくないでしょう。これにはいくつか理由があります。まず、C. difficileは嫌気性菌ですので、嫌気培養を細菌検査室に指示しなければ検出されません。さらに、十分な量(5mL以上)の検体を採取する必要があります。また、毒素産生株かどうかの検査も、最初からC. difficileによる下痢症を疑って指示しなければ行われませんね(ちなみに、培養検査を外注している施設では、毒素陽性の検査結果で代用することも実際的・現実的です)。

 C. difficile感染症は実際のところ、どの程度発生しているのでしょうか?これは、C. difficileを積極的に疑って検査を積極的に実施している施設のデータをみる必要があります。日本からの報告は決して多くはなく、2014年に出された論文によれば、入院患者のべ日数10,000日あたり3件程度でした1)。500床の病院であれば20日~25日あたり3件程度ということになりますから、1年間では40件程度発生していることになります。結構多いと思いませんか? 皆さんの施設でも、検査してないだけで実はC. difficile感染症が結構発生しているのかもしれません。なお、欧米の医療環境では同じ指標で4~10件程度と、やや多くなっていますが、頻度よりもむしろ病原性の高い、毒素高産生株が問題になっています。

著者プロフィール

森兼啓太(山形大学医学部附属病院教授、検査部・感染制御部部長)●もりかねけいた氏。1989年東京大学卒。消化器外科医として勤務するうちに感染制御に関心を持つようになる。国立感染症研究所を経て2010年より現職。

連載の紹介

わかる!院内感染対策
針刺し切創、カテーテル関連血流感染、カテーテル関連尿路感染、周術期の手術部位感染、多剤耐性緑膿菌など、院内感染に関して知っておきたい最低限のトピックスを、日本環境感染学会教育委員会委員長を務める森兼啓太氏が紹介します。基礎からの解説なので、院内感染対策に興味がない医師や、これから院内感染を学びたいと思っている医師にもピッタリです。

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