日経メディカルのロゴ画像

第9回 職業感染対策その4
結核?まさかね~ いや、でも…

2017/04/26
森兼 啓太(山形大学医学部附属病院感染制御部・検査部)

 前回は麻疹を取り上げました。皮肉なことに、執筆直後から私の勤務する山形県で患者が急増し、アウトブレイクという状況になっています(関連記事:山形県の麻疹感染が拡大、埼玉県や宮城県でも患者確認)。4月11日現在で57人の患者が確認されています。当院でも麻疹疑い患者受診時の対応を改めて確認したり、リスクの高いと考えられる部署から別の場所に職員を異動させたりと、様々な対応に追われました。メディアは連日のように県内の流行状況を報じ、当院で臨時に実施した全職員対象の院内感染対策研修会には定期研修会も含めた過去最高の800人を超える職員が詰めかけました。普段から院内感染対策にこれほどの高い関心を持ってもらえたらなあ……とぼやきたくなりましたが、これをきっかけに職員の意識が更に高まることを期待したいです。

 さて、今回取り上げるのは、結核です。結核も麻疹と同様に空気感染し、感染者と同室になるとうつるという点では同じです。ただ、感染力に大きな違いがあり、麻疹は1人の患者が12~18人の感受性者を感染させると言われていますが、結核でのこの数字は1以下とされています。もちろん、同じ人達が長時間一緒に過ごす、職場や学校・刑務所などの特殊な環境においては、1人の患者から数十人の2次感染者が発生することも珍しくありません。

 結核の感染防御に有効なワクチンは基本的にありません。従って、院内での結核対策は、有症状者を早く見つけることと、接触者の事後のフォローアップのふたつが主なものとなります。前者は結核に限らず全ての感染症に当てはまることですが、後者は結核特有のものです。接触者はたいていの場合、空気予防策の要であるN95マスクを着用せずに患者に接しています。まず健康観察を行い、結核の発症が無いことを確認します。並行して、無症状ですが結核に感染した状態(潜在性結核感染症と呼ばれます)になっていないかどうかを確かめる必要があります。

 その検査として、かつてはツベルクリン反応が用いられましたが、幼少時のBCG接種によってもツベルクリン反応が陽性になり得ますので、今回の曝露による結核感染と区別がつかず、診断的意義が低い検査でした。しかし、10年ほど前、免疫学的検査である抗原特異的インターフェロン-γ遊離検査 (IGRA:Interferon-Gamma Release Assay)が確立され、現在ではこの検査を曝露直後(といっても数日以内でOKです)と6~8週間後の2回実施し、その結果を比較することで潜在性結核感染症の診断ができるようになっています。

 さて、医療機関で結核患者に遭遇する確率はどの程度あるのでしょうか。それを考えるため、日本の結核患者の疫学を見ていきましょう。結核は感染症法に定められた「二類感染症」であり、診断した医師は保健所に届け出ることが定められています。すなわち、日本で新規に診断される結核患者は、その全てが保健福祉行政によって把握されていることになります。その制度のもとで、2015年の新規登録結核患者は1万8820人でした1)。平均すれば、日本のどこかで毎日50人以上が新たに結核と診断されています。自分の所属施設で外来患者や入院患者に結核患者が見つかっても、不思議ではありませんね。当院でも年間数名の新規患者を診断し、そのたびに前述の接触者フォローアップを行っています。

著者プロフィール

森兼啓太(山形大学医学部附属病院教授、検査部・感染制御部部長)●もりかねけいた氏。1989年東京大学卒。消化器外科医として勤務するうちに感染制御に関心を持つようになる。国立感染症研究所を経て2010年より現職。

連載の紹介

わかる!院内感染対策
針刺し切創、カテーテル関連血流感染、カテーテル関連尿路感染、周術期の手術部位感染、多剤耐性緑膿菌など、院内感染に関して知っておきたい最低限のトピックスを、日本環境感染学会教育委員会委員長を務める森兼啓太氏が紹介します。基礎からの解説なので、院内感染対策に興味がない医師や、これから院内感染を学びたいと思っている医師にもピッタリです。

この記事を読んでいる人におすすめ