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多剤耐性緑膿菌のアウトブレイクを防ぐために

2016/12/28
森兼啓太(山形大学医学部附属病院感染制御部・検査部)

 第2回から第4回までは感染症の発生を防ぐ対策を取り上げましたが、今回は患者間の伝播防止対策を取り上げます。

 伝播防止と聞くと、「どうせまた手を洗えって言うんでしょ」と瞬時に反応する読者の方もおられるでしょう。はい、その通りです。手洗い(手指衛生)は、院内感染対策の基本である「標準予防策」の中でも、最も重要な要素です。その標準予防策は、特定の病原体や感染症だけに適用されるものではなく、あらゆる病原体や感染症の伝播防止のために実施すべき、最低限の対策です。

 「標準予防策」に対し、特定の病原体や感染症に適用される伝播防止対策があります。最もわかりやすいのが空気予防策ですね。結核と診断されている患者を個室に収容し、その部屋を陰圧に保ち、入室するスタッフはN95規格のマスク(N95レスピレータが正式な呼称です)を着用するのが、空気予防策です。これは結核をはじめいくつかの感染症に限って実施する対策です。

 今回とりあげる、多剤耐性緑膿菌(Multidrug-resistant Pseudomonas aeruginosa:MDRP)も、特別な対策が必要な病原体(感染症)の1つです。では、MDRPの伝播防止対策は何と呼ばれるでしょうか。

 答えは、皆さんもご存知の、あのめんどくさい「接触予防策」です。患者は個室に収容され、スタッフは入室時に必ずガウンやエプロンと手袋を着用しなければなりませんね。患者さんとちょっと話をするだけだから、ということでガウンと手袋を着用しないまま入室しようとすると、病棟師長さんに見つかってこっぴどく叱られた……なんて経験はありませんか。

 緑膿菌は、免疫力の低下した患者に感染症を起こす代表的な病原体として知られています。「日和見病原体」と呼ばれることもあります。日和見という言葉は、物事の形勢をみて有利な方に付くという意味です。緑膿菌は感染症を起こす力が弱く、普段は起こそうとしても無理なのでじっと様子をうかがっていて、宿主の免疫力が低下したり自分よりも感染症を起こす力が強い病原体がまわりにいなくなったりしたときにはじめて動き出す、ある意味で非常に賢い病原体です。

 さて、MDRPも緑膿菌の一種ですので、その伝播能力や感染症を起こす力は普通の緑膿菌と変わりません。では、尿路感染症の患者が目の前にいたとして、その原因菌(起因病原体)が普通の緑膿菌である場合と、MDRPである場合で、とるべき伝播防止対策は異なるでしょうか。それとも同じでしょうか。伝播能力が同じなら、とるべき対策も同じような気がしませんか?

著者プロフィール

森兼啓太(山形大学医学部附属病院教授、検査部・感染制御部部長)●もりかねけいた氏。1989年東京大学卒。消化器外科医として勤務するうちに感染制御に関心を持つようになる。国立感染症研究所を経て2010年より現職。

連載の紹介

わかる!院内感染対策
針刺し切創、カテーテル関連血流感染、カテーテル関連尿路感染、周術期の手術部位感染、多剤耐性緑膿菌など、院内感染に関して知っておきたい最低限のトピックスを、日本環境感染学会教育委員会委員長を務める森兼啓太氏が紹介します。基礎からの解説なので、院内感染対策に興味がない医師や、これから院内感染を学びたいと思っている医師にもピッタリです。

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