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懺悔─有病率の計算を間違えてしまいました

2020/07/02
森井大一(大阪大学感染制御学)

 前回のコラムで示した有病率(prevalence)の推定には間違いがあることにあとになって気づいた。お恥ずかしい限りである。申し訳ありませんでした。東京での抗体検査結果は0.1%が陽性であったので、6月初旬ごろまでの東京での感染者数は1万4千人程度(人口1400万人の0.1%)ということになる。これは6月初旬までにPCRで確定されていた5250人の2.67倍に当たる。(前回のコラムでみたように)6月16日の確認患者数は27人だったのだが、その時点での推定の有病率は、これを2.67倍した上でさらに平均の罹患日数をかけなければならなかった。

 前回のコラムでは、平均の罹患日数をかけ忘れていたので、正しい有病率よりも低い値を推定してしまっていた。罹患日数については、厚労省が公開している『新型コロナウイルス感染症COVID-19診療の手引き 第2.1版』にある無症状者の退院基準から10日として、27人が確認された日の潜在的感染者数は694人(27×2.67×10-27人)となる。ここまでやってようやく確定患者を除いた有病率を知ることができ、これは0.005%、つまり2万人に1人ぐらいの割合ということになる。これをもとに感度7割・特異度99%という前回想定したのと同じ検査精度(特異度は中山大学テキサス大学マイアミ大学、さらにはBMJの文献を参照しつつそこで示された値より少しだけ高く見積もった)で陽性的中率を計算すると0.35%となる。前回は0.036%と書いてしまったので、それよりも10倍高い。スクリーニング検査で陽性となった人が300人いた時に、本物の感染者がその中に一人はいるだろうという程度の割合である。残りは全部偽陽性である。

 前回コラムにおける有病率の間違い及び、そのあとの検査後確率(陽性的中率)の間違いについては弁解の余地がない。コラムをふと読み返して、この間違いに気づいたときには青ざめた。これは、有病率と罹患率の混同という、かなり初歩的なミスで、まさか自分がこのような轍を踏むとは思わなかったが、言い訳しても始まらない。混乱を招いたことを重ねて謝罪するものである。その上で、改めて読者ご自身で、この検査後確率(陽性的中率)と偽陽性についてお考えいただければ幸いである。

 筆者のコラムを丁寧に読んでいただいている方には今更説明するまでもないことだが、筆者はPCR否定論者ではない。むしろ、PCR推進論者を自認している。PCR検査という限られた社会資源を効率的に活用することで、1人でも多くの患者を見つけなければならないと考えている。また、そのような必要な検査を推進するためにはどのような方策があるのかを微力ながら考えている。しかしだからこそ、「感染対策のために」などという誤った見識が横行することには厳しい批判を加えざるを得ない。

 コロナ疑い患者の診療、そしてPCRという検査に日々向き合い、無い知恵を絞ってああでもないこうでもないと反芻している。その中で実感するのは、やはり基本の重要性である。生活歴や行動歴まで含めて細かく病歴を聴取し、身体所見についてはすでにコロナ患者での発現頻度が明らかにされているものを含めて見ていく。所見を取る時は、(筆者の場合)丁寧に見るというよりは、頭の先からつま先まで流れ作業でザーッと一気に見る。典型的症状は、どういうものがどれぐらいの頻度で出るかということについて、これまで何度も大規模研究の表とにらめっこしたのでさすがに覚えてしまったが、非特異的な所見がほとんどなので、実のところは特別な知識は全くいらない。

 特別なことは必要ないのだと思う。ただ、医師としてのごく基本的な診療を普通にやるとこと、そしてそのことを通して検査前確率が一般有病率よりも上がる要素が一つでもあるか、それだけに注目してPCR検査の適応を判断している。

 PCRという検査は、検査前確率が低い状況で実施すると偽陽性の問題が大きくなる。患者は隔離され、様々な社会的、医療的制約を受ける。妊婦は(基本的に全例)帝王切開される。決して無害な検査ではない。しかし、使いようによっては役に立つ。平時から行っている医師の診療こそが、この検査の有用性と安全性を劇的に向上させる決定的なファクターだ。

著者プロフィール

森井大一(もりい・だいいち)●大阪大学大学院医学系研究科博士課程。2005年3月大阪大学医学部卒業、同年4月国立病院機構呉医療センター、2010年大阪大学医学部附属病院感染制御部、2011年米Emory大学Rollins School of Public Health、2013年7月厚生労働省大臣官房国際課課長補佐、2014年4月厚生労働省医政局指導課・地域医療計画課課長補佐、2015年4月公立昭和病院感染症科を経て今に至る。2018年から阪大病院の感染制御部医員も兼務。

連載の紹介

森井大一の「医療と経済と行政の交差点」
救急医として医師のキャリアをスタートさせた後、感染制御に越境し、公衆衛生を学んだ上で、厚生官僚を経験。現在はノーベル賞受賞で話題の行動経済学を医療に応用すべく研究を進める筆者に、 医療と経済と行政が交わる地点に立って思いの丈を語っていただきます。

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