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臨床現場から考えるPCR検査の正しい使い方

2020/06/02
森井大一(大阪大学感染制御学)

 前回のコラムでは、無症状者へのPCR検査がいかに無意味であるのかと、それを巨額の公費で賄うことの問題点について指摘した。

 まずは簡単に前回のおさらいをしておく。仮に未捕捉の感染者が1万人この日本に暮らしているとして(つまり有病率0.008%)、無症状の市民を感度3割・特異度10割のPCR検査でスクリーニングすると仮定したとき、一人の陽性者を見つけ出すために必要な検査は4万件(1億2000万人÷3000人)と計算される。この検査に要する費用は全て公費で賄われており、単価1万3500円とすると(ほんとはこれに1500円の判断料もプラスされ、こちらも公費でカバーされる)5億4千万円(4万件×1万3500円)かかることになる。現状の潜在的感染者数は1万人よりもはるかに少ないだろうから、実際にはさらに効率の悪い検査が「無症状者へのPCR」というごっこ遊びの正体なのである。

 前回のコラムの主題は、少し感染状況が落ち着いた今こそ、リソースの適切な配分という視点から対策を見直す必要性があるということであった。今回は、視点をもう少し現場に移しつつPCRという貴重な社会資源の配分についてさらに考えることにする。

 今回のコラムでは、国単位の大きな話はひとまず横に置いて、我々現場の医療者がこのPCR検査をどのように使いこなすべきか考えてみたい。ちなみに筆者は、主として勤務している大学病院の他に、関西のとある小さな市でその市唯一の帰国者・接触者外来を開設している医療機関にも勤務している。筆者の勤務するその小さな病院では、発熱患者やすでに確定した感染者との濃厚接触者の診療を担当することが多い。あらかじめ他院で施行された画像検査(特に胸部CT)があるような症例はやってこない。筆者が診察する患者のほとんどは、初診で来るか、保健所からの依頼である。本稿では、この小さな病院での経験をベースに書き進めることにする。

著者プロフィール

森井大一(もりい・だいいち)●大阪大学大学院医学系研究科博士課程。2005年3月大阪大学医学部卒業、同年4月国立病院機構呉医療センター、2010年大阪大学医学部附属病院感染制御部、2011年米Emory大学Rollins School of Public Health、2013年7月厚生労働省大臣官房国際課課長補佐、2014年4月厚生労働省医政局指導課・地域医療計画課課長補佐、2015年4月公立昭和病院感染症科を経て今に至る。2018年から阪大病院の感染制御部医員も兼務。

連載の紹介

森井大一の「医療と経済と行政の交差点」
救急医として医師のキャリアをスタートさせた後、感染制御に越境し、公衆衛生を学んだ上で、厚生官僚を経験。現在はノーベル賞受賞で話題の行動経済学を医療に応用すべく研究を進める筆者に、 医療と経済と行政が交わる地点に立って思いの丈を語っていただきます。

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