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大阪モデルとはなにか?─自粛解除基準の数値が持つ意味を考える

2020/05/13
森井大一(大阪大学感染制御学)

 前回のコラムで都道府県の自粛要請の解除基準(ひいては緊急事態宣言そのものの解除基準も同じ話だが)に関して、それが必要である理由について解説した。今回は、その大阪モデルの具体的中身について見ていくこととする。筆者は総論として大阪モデルを支持しているが、個別の基準項目ごとに見ていくと全く問題がないわけではない。基準の解釈について、どのような注意が必要なのか筆者の見解を書いてみる。

 行政による説明については大阪府のサイト(資料3-1)にあるが、その要点は、明確な数値基準を設定し、それによって自粛要請を解除又は再要請するということである。誤解されがちだが、これは単に4月からの緊急事態宣言下での自粛要請を段階的に解除していくことだけが目的ではない。むしろ、緊急事態宣言という伝家の宝刀とその下での要請等の効果をこれまでと同じように維持していくための工夫である。

 4月の経験を通して、緊急事態宣言&都道府県ごとの自粛要請というパッケージが極めて効果的なツールであることが証明された。このパッケージの切れ味を保つためには、緊急事態宣言自体の正当性をよりはっきりと誰の目にも見えるようにしていくことが必要である。それを怠り漫然と「俺たちについてこい」とばかりにパッケージの濫用を繰り返しても、瞬く間にその神通力は失われてしまうだろう。

 大阪モデルでは、具体的な自粛等の解除の基準として以下の3つを設定している。大阪府において、
(1)リンク不明の新規患者数の7日平均が10人未満
(2)PCR検査の陽性率の7日平均が7%未満
(3)ICUの病床使用率60%未満
これら3つの基準全てが7日間連続でクリアされれば、段階的に自粛要請を解き、社会経済活動を動かしていくとしている。

 まず押さえるべきなのは、この3つの基準は市中での感染動向を反映しただけの指標ではないという点である。どれだけ感染が起こっているかということと同時に、社会がどれだけこの感染症に対する準備(対応)ができているかという指標でもある。これはとても重要な点なので、その前提は理解しておいてほしい。

 また、個別の項目の解説の前に、やや些末な点だが、「7日平均」というものについて説明しておく。新規患者数やPCR検査件数は、ウィークエンドバイアスとも呼ばれる曜日の影響を受ける。これらを補正するために、ある測定日を含む過去7日間の患者数なり検査数を全て足して7で割るという工夫をすることがある。これにより、曜日によるバイアスを補正することができると同時に、測定値のバラツキを抑えることができる。実際、患者発生数のバラツキがどのように補正され、一定の傾向として把握しやすくなるか、図に大阪の新規患者についてのグラフを示すので参照されたい。

図 確定日別と7日平均による1日患者数の推移(大阪)

著者プロフィール

森井大一(もりい・だいいち)●大阪大学大学院医学系研究科博士課程。2005年3月大阪大学医学部卒業、同年4月国立病院機構呉医療センター、2010年大阪大学医学部附属病院感染制御部、2011年米Emory大学Rollins School of Public Health、2013年7月厚生労働省大臣官房国際課課長補佐、2014年4月厚生労働省医政局指導課・地域医療計画課課長補佐、2015年4月公立昭和病院感染症科を経て今に至る。2018年から阪大病院の感染制御部医員も兼務。

連載の紹介

森井大一の「医療と経済と行政の交差点」
救急医として医師のキャリアをスタートさせた後、感染制御に越境し、公衆衛生を学んだ上で、厚生官僚を経験。現在はノーベル賞受賞で話題の行動経済学を医療に応用すべく研究を進める筆者に、 医療と経済と行政が交わる地点に立って思いの丈を語っていただきます。

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