
前回に引き続き、手指衛生と感染対策の課題を考えてみたい。今回は感染対策担当者の“語りべた問題”である。
手指衛生遵守の課題が未だ解決されていない現状を説明し得る2つの理由のうち、筆者はとりわけ感染対策担当者の“語りべた問題”を重視したい。もちろん、自戒、自嘲、懺悔を込めてである。一つの反省点は、多様な医療者に対して、画一的な語りかけしかしてこなかったのではないか、という点である。
一例を挙げる。
2012年に発表されたメリーランド大学/ボルチモアVAの研究1)で、MRSAや多剤耐性アシネトバクター(MDRA)等の多剤耐性菌を保菌する患者をケアした医療者の手袋やガウンにどれぐらい同じ菌が付いているかを見たものがある。
それによると、MRSA患者の部屋に入って出てきた医療者の手袋又はガウンに、同じMRSAが付いていた割合は14%、MDRAは33%であった(図1)。つまり、ある患者がアシネトバクターを保菌していれば、医師なり看護師が3回以上なにがしかのケアや診察をした時点で、ほぼ確実にその医療者の体のどこかにその菌が付着しているといえよう。しかも、たとえ手袋をしていたとしても、手袋の下の手には3%程度の頻度で同じ耐性菌が付着していることも明らかとなった(図1中の黄色のバー)。

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