道を歩いていて「通りぬけ禁止」という立て札があったとする。もしその道を通れば、今向かおうとしている駅前のスーパーまで1分もかからない。ただし、立て札の示すままにその道を通ることを諦めて迂回すれば10分は余計に歩かなければならない。立て札の前で数秒間逡巡していると、初老のご婦人が道の脇に置かれた花壇に水をやりながら、チラとこちらに微笑みかけた。気づくと、先を急ぐ中学生やサラリーマンが「通行禁止」と書かれた立て札の横を通り過ぎていくが、ご婦人がそれを止めるそぶりもない。それどころか、知り合いを見つけてにこやかに挨拶を交わした。「そうか、ここは別に通ってもいいんだな。少なくともこの時間は」──。
多くの人にとって、ルールなるものは、それを示されただけで「守らねばならないもの」と認識するわけではない。「ルール上はこうですよ」ということを頭にインプットしつつも、自分がそのルールを遵守するかどうかについては「そのルールがどのように運用されているか」を見た上で判断している(ことが多い)。
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著者プロフィール
森井大一(もりい・だいいち)●大阪大学大学院医学系研究科博士課程。2005年3月大阪大学医学部卒業、同年4月国立病院機構呉医療センター、2010年大阪大学医学部附属病院感染制御部、2011年米Emory大学Rollins School of Public Health、2013年7月厚生労働省大臣官房国際課課長補佐、2014年4月厚生労働省医政局指導課・地域医療計画課課長補佐、2015年4月公立昭和病院感染症科を経て今に至る。2018年から阪大病院の感染制御部医員も兼務。

連載の紹介
森井大一の「医療と経済と行政の交差点」
救急医として医師のキャリアをスタートさせた後、感染制御に越境し、公衆衛生を学んだ上で、厚生官僚を経験。現在はノーベル賞受賞で話題の行動経済学を医療に応用すべく研究を進める筆者に、 医療と経済と行政が交わる地点に立って思いの丈を語っていただきます。
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