
今回も医療機器の単回使用問題を切り口に医療の課題を考えたい。
我ながらよくもまぁくどくどと書いていられるなぁ、と思う。単回使用の話をこれだけしつこく書いているのは、早晩この問題を現状のままに放置できなくなり、何らかの具体的な動きが出てこざるをえないだろうと考えているからである。現に高額医薬品の残液利用では、残薬利用を解禁する方向で具体的な動きが出てきている[1]。残薬利用も医療機器の再使用も、医療費抑制圧力と医療安全及び薬事・医療機器承認に関する責任をどう考えるかという共通した構図を持っている。
一方の規制の在り方に何らかの変化が出てくるのであれば、遅かれ早かれもう一方でも並びをとるという発想になる。おそらく両者は並行して進んでいくだろう。政治や行政の担当者が具体的な動きを、それなりのスピード感をもって進めるのは当然のことではあるが、あるべき論が好きなだけ議論できるのは、何か(規制の大きな変化かもしれない)が起こる前だけだったりもする。本業の片手間に一医療人としてモノを考えているに過ぎない筆者のような者としては、並走して現実的事象を追いながら具体的に考えることの価値を認めた上で、現実に引っ張られすぎない、腰を据えた論点整理が役に立つことも時としてあるに違いないと信じたい。
仮に単回使用医療機器の院内再生処理&再使用の手順が定められ、(一定期間のみであれ)再使用が明確に認められたとしよう。手順に関する筆者なりの提案はすでにしてあるが(「添付文書遵守」の内側にもう一つ築くべき堤防)、中でも重視したいのは患者への説明である。「添付文書では再使用禁止と書かれていますが、当院では院内再生処理したものを再使用します」と説明する必要が絶対にある。
その理由を今一度整理すると、
1)Business to Consumerの関係の中で、患者という弱い立場にある者の自己決定(の機会)を保護するため。
2)医療者と患者の間にある情報の非対称性を緩和することで医療の質に対する市場の機能を活かすため。
3)「添付文書遵守」という診療契約の前提に組み込まれている(と考えられる)医療側の義務を上書きするため。
ということになる。今回のコラムでは、この3つの理由について改めて考えてみたい。