日経メディカルのロゴ画像

第22回
著明な喘鳴を喘息と決めつけてはいけない!

2018/12/21
望月 礼子(鹿児島大学病院救命救急センター)

 この連載は救急搬送される患者の病院到着前に、救急隊からの連絡(収容要請)を基にどのように考えるかを、症例ベースで展開しています。病着後にまず確認すべきレッドフラッグは何かを意識しながら、救急ならではの臨床推論を一緒に体験してください。レッドフラッグは「見逃してはいけない疾患を示唆する徴候や症状」を意味します。主訴ごとのレッドフラッグを想起することが、診療の第一歩です。

 今日は院内急変の症例を紹介します。

救急看護師 内科外来から診察の依頼です。41歳男性で、来院時に呼吸困難感の訴えが強く、SpO2 80%(室内気)とのことです。 

研修医タロウ すぐ初療室に連れてきてください! 気管支喘息ですかね?

救急医M 喘息の既往があるなら、来院時に「喘息」と訴えそうだが、初発なのかな。SpO280%なのに、ウォークインということは、急激に増悪しているということかもしれない。仕事中に発症したのかな。

[初療室入室時13:55]  
患者の第一印象(general appearance) : 不良。車椅子で入室。努力様呼吸が見られ、「く、くるしいです・・・」と会話困難あり、口唇チアノーゼはない。
バイタル:意識清明、血圧170/110mmHg、脈拍数128回/分、呼吸数21回/分、SpO2 86%(3L鼻カニューレ)、体温37.1℃
頭頸部:左右眼球結膜充血
呼吸音:(研修医聴診)肺野全域で左右差なくwheezing著明 

研修医タロウ 喘息です。吸入準備して!

救急医M リザーバーマスク10Lに変更します!

[続く救急医Mの診察にて]
聴診:肺野全域でwheezing著明。続いて頸部聴診にて肺野よりも明らかに強い上気道狭窄音(stridor)を聴取した。

※stridor:吸気性喘鳴。咽頭、喉頭や気管などが部分的に閉塞し、吸気時に発生する喘鳴

救急医M 上気道狭窄あり、アナフィラキシーだ! アドレナリン0.3mg筋注!

 直ちにアドレナリン0.3mgを大腿前面外側に筋注。末梢ラインから細胞外液を全開で投与開始。5分程度で上気道狭窄音は改善したが、呼吸困難は持続。15分程度してから「楽になりました」と会話がスムースとなった。

 以下に呼吸状態改善後に聴取した現病歴と、初療室までの経過を示す。

11:45:仕事中に頭痛があったため、同僚から市販の鎮痛薬(商品名バファリン)をもらい内服した。
12:00:昼休み後(内服15分後)に乾性咳嗽が出現し持続。その後、呼吸困難が出現した。次第に増悪するため当院へ同僚の車で向かった。
13:50:病院到着。
13:55:救急外来へ移動。

【既往歴・内服歴】なし 
【アレルギー歴】なし
【喫煙歴】10本/日。18歳から現在
【社会歴】職業は清掃業。ただし、薬品などの曝露なし  

 最終診断は、アナフィラキシーとなりました。

 ショックはないものの上気道狭窄が著明だったことから、2相性のアナフィラキシー出現を考慮してICU入室とした。20時に呼吸困難が出現するも、上気道狭窄はなく、気管支拡張薬の吸入で症状は消失。その後は問題なく、2日目に退院となった。今回の症状は、鎮痛薬(バファリン)によるアナフィラキシー、すなわち、命の危険もあるアレルギー反応であったことを説明し、今後は鎮痛薬を自己判断で内服しないよう説明し、大学病院のアレルギー外来受診の方針とした。

著者プロフィール

望月礼子(鹿児島大学救命救急センター・奄美プロジェクト特任講師)●もちづきれいこ氏。2007年大分大卒。自治医科大学附属病院の初期研修で臨床推論の奥深さに触れ、疾患の宝庫である救急へ。今後の夢は、緊急度・重症度の評価で重要な「レッドフラッグ」を救急隊や離島医療、一般市民に広めること。南極で皇帝ペンギンと語り合うこと。救急科専門医。

連載の紹介

患者到着前から始まるエマージェンシー臨床推論
時間との闘いである救急医療は患者到着前、すなわち救急隊からの病院連絡時から始まる。救急隊の情報を基に原因疾患を臨床推論し、患者到着と同時に適切な対応を提供する--。この目標を達成するために必要となる「救急ならではの思考プロセス」を、救急医の望月氏が独自作成した「二次元鑑別リスト」で見える化する。

この記事を読んでいる人におすすめ