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第5回
「回転性めまい=末梢性」はNG

2018/03/23
望月礼子

研修医: めまいの鑑別とレッドフラッグが整理できたため、めまいの診察時間が短くなりました(連載4「主訴<めまい>の救急患者への対応法 」)。主訴<めまい>のほとんどは末梢性めまいで、頭部CTが必要な症例は少ないこともよく分かりました。

救急医M: それはよかった。めまいは病歴が重要だと分かると、患者さんから短時間に確実な情報を聞き出す訓練の重要性も理解できるよね。


そんな会話をしているところに、救急隊からの病院連絡です。
救急隊: 59歳女性、主訴は回転性めまいです。40分程前歩行中に発症しました。その後も症状が持続し、体動でめまいが増悪し嘔吐もあったため、救急要請となりました。麻痺やしびれはありません。
研修医: 経過中に頭痛や意識消失はありませんか?
救急隊: ないそうです。

 ということで、搬送を受け入れました。既往歴は高血圧症(未治療)、内服薬はなし。バイタルサインは、意識清明、血圧160/70mmHg、脈拍数68回/分・整、呼吸数18回/分、SpO2 95%(RA)、体温36.0℃。

研修医: 体動で増悪する回転性めまいですね。僕に、任せてください!潜時・持続時間が計れて完全消失するならBPPV(良性発作性頭位めまい症)の診断で帰宅です。あとは念のため中枢性めまいのレッドフラッグがないことをカルテに記載して終わりですよ(自分、仕事できるなあ……)。

 病着時、ストレッチャーからの移動でめまいは増悪。座位でもめまいは持続し苦しそうに閉眼している。このようなめまいは初めてとのこと。呼び掛けで開眼するもすぐに閉眼。少量嘔吐あり。安静でも持続する強いめまいのため、中枢性めまいを考慮し頭部CTをオーダー。待ち時間に研修医に手早く所見を取ってもらった。

<来院時所見>
陰性症状:頭痛、頸部痛、耳鳴り、しびれ(一過性のしびれもなし)
GCS: 15点、E4V5M6、構音障害なし、血圧157/70mmHg、脈拍数70回/分・整、呼吸数18回/分、SpO2 96%(RA)、体温34.9℃
神経: 瞳孔3/3mm左右正円同大 対光反射+/+、脳神経II-XII局所所見なし、眼振認めず、指鼻試験・膝踵試験・回内/回外試験は陰性
頭頸部/心音/呼吸音/腹部:特記なし
四肢: 上肢 左右MMT5、しびれなし

研修医: 報告です。意識清明、脳神経の局所所見はなく、眼振、協調運動障害、小脳症状も認めませんでした。突然発症の回転性めまいなのでBPPVの診断で帰宅させたいです。

救急医M: ちょっと待って!突然発症と回転性めまいは確かにBPPVの特徴だけど、それだけで安易に診断はできないよ。めまいがやまないということは、潜時も持続時間も計れないわけだから、BPPVとは診断できないね(引用1)。1つずつの症状が鑑別診断と合う・合わないかを判断していくのが診断のプロセスだよ。この人は安静でも持続するめまいだから中枢性も考えて頭部CTをオーダーしたんだよね。それに、まだ確認していない中枢性めまいのレッドフラッグもあるけど、何かな?

研修医: (小さな声で)えー、何でしたっけ?
救急医: 体幹失調についても、必ず確認しよう。聞き方にもコツがあるよ。

(患者へ手振りを交えて質問)「体が左右どちらかに傾く感じはありませんでしたか?」

患者: そういえば歩いていたら左側に体が傾く感じがして、その直後にめまいがきました。

 なんと自発的訴えはなかったが、ストレッチャー上半座位で、今も左に傾く感じがするとのこと!さらに体の傾く感じについて詳細を聞くと、「左側に髪を引っ張られる感じ」とのこと。

研修医の心のつぶやき: (僕がめまい以外に何かありますかって聞いたときは言ってなかったのに……)
救急医M: 突然発症のめまいで、体幹失調あり、中枢性めまいだ!

 直ちに救急医が眼振を再診察したところ、垂直眼振を認めました。垂直眼振があれば中枢性病変と考えてよいことになっており(引用2、3)、この時点で中枢性めまいの臨床診断となりました。病着後約7分でした。

著者プロフィール

望月礼子(鹿児島大学救命救急センター・奄美プロジェクト特任講師)●もちづきれいこ氏。2007年大分大卒。自治医科大学附属病院の初期研修で臨床推論の奥深さに触れ、疾患の宝庫である救急へ。今後の夢は、緊急度・重症度の評価で重要な「レッドフラッグ」を救急隊や離島医療、一般市民に広めること。南極で皇帝ペンギンと語り合うこと。救急科専門医。

連載の紹介

患者到着前から始まるエマージェンシー臨床推論
時間との闘いである救急医療は患者到着前、すなわち救急隊からの病院連絡時から始まる。救急隊の情報を基に原因疾患を臨床推論し、患者到着と同時に適切な対応を提供する--。この目標を達成するために必要となる「救急ならではの思考プロセス」を、救急医の望月氏が独自作成した「二次元鑑別リスト」で見える化する。

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