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世界をリードする再生医療・新制度のインパクト
「億」単位で掛かる治療費用の財源も大問題

2015/04/10
宮田俊男(日本医療政策機構)

 イモリの尻尾を切っても、いずれ綺麗に再生する。イモリは驚異的な再生能力を持つからだ。人間でも、病気で失った臓器を取り戻したい、怪我で切れた神経を再びつなげたい――。

 科学の進歩により、そんな願いをかなえる再生医療の実用化が検討される時代に入った。再生医療は、京都大学の山中伸弥教授が樹立したiPS細胞や、ES細胞体性幹細胞などを用いて機能不全となった組織や臓器を再生させる医療であり、治療法がない難病においても根本的な治療法として期待されている。

 しかし、再生医療の実用化に当たって大きな障壁となるのが、効果や長期的な安全性を科学的に検証することの難しさだ。再生医療で用いる生きた細胞は、非常に不安定かつ不均一であり、効果の科学的評価は容易ではない。安全性では、iPS細胞において腫瘍化を心配する声もあるが、100%の安全を保証することはなかなか難しいはずだ。さらに、重症疾患の患者を再生医療が行われる群と再生医療が行われない群に振り分けるような比較臨床試験の実施は倫理的な面から皆、躊躇するだろう。

 再生医療で用いる細胞などの「製品」を化学合成で量産する医薬品と同じような薬事規制下に置けば、気の遠くなるような長期の審査期間を必要とし、日本の大学や研究所の成果はなかなか実用化されず、患者さんに医療として提供することが不可能に近くなる。

 そうした状況はこれまでも幾度となく発生してきた。例えば、少し前に遺伝子治療がブームになったときは多額の公的研究費が投入されたが、実用化に結び付かず、結局は萎んでいった。なお、この間、欧州では戦略的に産学官連携を進めていた。欧州では薬事承認を受けた遺伝子治療製品がいよいよ登場し、日本は高額な費用で輸入することになるだろう。

 こうした事態を避けて再生医療をスピーディかつ安全に実用化するため、旧薬事法を大幅に改正した「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」(医薬品医療機器等法)と、「再生医療等の安全性の確保等に関する法律」(再生医療等安全性確保法)がセットで2013年11月に公布され、2014年11月に施行された。今回は、これらの新しい枠組みについて紹介したい。

条件付け早期承認する新制度を創設
 医薬品医療機器等法は、医薬品や医療機器とは異なる「再生医療等製品」という新しい法的なカテゴリーを世界に先駆けて創設した。再生医療等製品は、細胞に培養などの加工を施したもの。身体の再建や治療を目的として使用したり、遺伝子治療を目的として細胞に導入して使用する。

 そして再生医療等製品に特化した特別な薬事承認制度を設けた(図1)。少人数への治験で安全性が確認され、有効性が「推定」されれば、条件・期限付きで承認する。患者数が少ない難病でも、開発がうまく進めば数年程度で患者さんに届く仕組みであり、世界的に注目されている。その代わり、条件・期限付き承認後は7年間レジストリー登録を行い、市販後の有効性や安全性を検証し、有効性や安全性が証明できなければ承認取り消しとなる。

著者プロフィール

宮田俊男(日本医療政策機構エグゼクティブディレクター、医師)●みやたとしお氏。
1999年早大理工学部(人工心臓開発)卒、2003年阪大医学部卒。7年臨床(心臓外科)に従事した後、厚労省へ。退官後、2013年より現職。内閣官房の戦略推進補佐官、神奈川県黒岩祐治知事の顧問、国立がん研究センター政策室長なども兼務。Twitterはこちら

連載の紹介

宮田俊男の「医師こそ戦略思考を」
日本の医療政策は難しい舵取りを迫られています。国民皆保険制度を維持し質の高い医療を提供するために、どのような医療政策が必要なのでしょうか。一人ひとりの医師がマクロな視点から医療を捉え、ベストな戦略を考えることが大切です。ここでは、そのための話題を提供します。

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