2015年4月に設立される独立行政法人・日本医療研究開発機構(AMED:Japan Agency for Medical Research and Development)の初代理事長として、慶應義塾大学医学部長の末松誠氏の就任が決まった。当初のいわゆる日本版NIH構想や、日本医療研究開発機構(AMED)が、日本の基礎研究や臨床研究、ひいては医療を変革する可能性について述べたいと思う。
日本版NIH構想は、安倍内閣の経済政策「アベノミクス」の第3の矢として打ち出された「日本再興戦略」の目玉の一つである。革新的な医療技術の実用化を加速すべく、医療分野の研究開発の司令塔機能を担う。ただし、当初想定していた米国立衛生研究所(NIH)とは予算規模も仕組みも異なるので、今は政府内で“日本版NIH”という言葉は使われていない。どちらかというと米国より欧州のモデルに近いだろう。多額の予算を投じるモデルは先進国の中で唯一米国にしかできない。
従来、日本では基礎研究と実用化との間に深いギャップがあり、「死の谷」と呼ばれてきた。死の谷は、各省庁の縦割り行政も大きな原因の一つだ。ライフサイエンス分野の基礎研究は文部科学省の所管であり、実用化は厚生労働省と経済産業省の所管である。これまで長年、文部科学省の予算は基礎研究に投じられてきたものの、研究成果の多くは出口戦略が描かれず、厚生労働省の臨床研究を支援するプロジェクトにはなかなか乗れなかった。
日本版NIH構想は、こうした文部科学省、厚生労働省、経済産業省の縦割りに横串を通し、基礎研究の成果を医療の質の向上や産業化につなげるために、(1)基礎研究の成果の展開に関するマネジメント、(2)臨床研究のデータ管理、知的財産の保護、倫理など研究支援体制の構築、(3)企業への橋渡し機能の強化──などを実施するというものだ。
日本版NIH構想の実現により、基礎研究(入口)の有望な成果が保険収載され実用化(出口)されるに至るまで、一環した研究支援がなされるであろうと国内外から大きな期待が寄せられている。
AMED設立は大きな一歩
ここで一度、全体像を説明しよう。日本版NIH構想では、内閣に新たに設置された「健康・医療戦略推進本部」が総合戦略を策定し、日本医療研究開発機構(AMED)は、その戦略に沿って研究費の配分や研究の環境整備などを手掛ける。
健康・医療戦略推進本部の本部長は安倍晋三内閣総理大臣が務め、健康・医療戦略担当大臣は、甘利明経済再生担当大臣が兼務する。総合戦略の決定や実行には政治の強力なリーダーシップが発揮されるはずだ。
またAMEDの組織自体の所管省庁は、文部科学省でもなく、厚生労働省でも経済産業省でもなく、内閣府となった。これら3省の縦割りを排除することがミッションの達成に必須だからだ。
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著者プロフィール
宮田俊男(日本医療政策機構エグゼクティブディレクター、医師)●みやたとしお氏。
1999年早大理工学部(人工心臓開発)卒、2003年阪大医学部卒。7年臨床(心臓外科)に従事した後、厚労省へ。退官後、2013年より現職。内閣官房の戦略推進補佐官、神奈川県黒岩祐治知事の顧問、国立がん研究センター政策室長なども兼務。Twitterはこちら。

連載の紹介
宮田俊男の「医師こそ戦略思考を」
日本の医療政策は難しい舵取りを迫られています。国民皆保険制度を維持し質の高い医療を提供するために、どのような医療政策が必要なのでしょうか。一人ひとりの医師がマクロな視点から医療を捉え、ベストな戦略を考えることが大切です。ここでは、そのための話題を提供します。
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