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「三つ子の帝王切開の過失で賠償2億」の無理筋

2015/05/22
峰村健司

 皆様ご無沙汰しております。昨年暮れから今年の春にかけて、前勤務地の退職と大学院入学、初の国際学会での発表などが重なり、慌しくしておりました。落ち着いて来たのでこちらでの執筆を再開させていただこうと思いますので、よろしくお願いいたします。

 さて今回は、裁判の仕組みの解説をお休みして、本年4月23日に高松地方裁判所で出された、品胎(三つ子)の一児が脳性麻痺となり2億円余りの賠償を認められた事例の紹介をさせていただこうと思います。なお、あくまで判決文のみに基づく紹介であり、カルテなどは閲覧しておらず、不明な部分もあることをご了承ください。

◎高松品胎緊急帝王切開訴訟[高松地裁平成24年(ワ)第419号、訴訟名は独自の命名]

【事例の概要】
 三絨毛性品胎の妊娠30週6日で一児の死亡が認められ、緊急で帝王切開を施行された。生存した二児のうち一児が脳室周囲白質軟化症(PVL)で脳性麻痺となった。

【裁判に至った経緯】
2002年
3月ごろから不妊治療を開始。
8月ごろに品胎妊娠が判明。分娩予定日は2003年4月12日。
9月13日から被告病院受診を開始。

2003年
2月3日 朝に少量の出血あり。同日20:30ごろに腹部痛出現、増強。入院となり切迫早産に対してウテメリン投与(この時点から2月5日までの投与量は不明。2月6日は100倍希釈を20mL/時, 2月7日は40mL/時であった模様)。担当医から、32週まで持たせたい旨が伝えられた。
2月7日(金曜日) 11:45、超音波検査にて一児死亡を確認。この時点で30週6日であったが、担当医の判断で緊急帝王切開施行、13時ごろ出産。PVLとなった児Aは1168g、もう一方の児Bは1258gであった。その後、Aは脳性麻痺で常時介護が必要となっている。

判決は「妊娠を継続させるべきであった」
 この事例に対して判決で、担当医が緊急帝王切開に踏み切ったことは過失であり、そのためPVLを発症したと判断され、2億1000万円余りの賠償が認められました。緊急帝王切開に踏み切ったことを過失と判断した理由の骨子は、以下のようなものでした。

・品胎の一児死亡に対するガイドラインはなかった。
・しかし双胎の一児死亡については、二絨毛膜双胎の場合は胎児胎盤循環が独立しており、生存児への悪影響が限局的であることから、そのまま妊娠を続けさせることが一般的とされていた。
・この点については三絨毛膜品胎の場合であっても同じであるはずで、一児が死亡しても他の二児とは胎児胎盤循環が独立しており、相互に影響をしないと考えられる。
・妊娠30週での出産は早産でありPVL発症の危険性が高いのであるから、なおさら妊娠を継続できるならば継続させるべきであったにもかかわらず、30週の時点で帝王切開で出産させてしまったことは過失であった。

著者プロフィール

峰村健司(順天堂大学大学院医学研究科博士課程、こはら眼科)●みねむら けんじ氏。1967年生まれ。東京大学理学部を卒業後、旅行会社勤務を経て、東大医学部に再入学。関東中央病院眼科部長などを歴任。診療や研究の傍ら、医療訴訟の傍聴・記録閲覧に出向き、判決が真っ当か「トンデモ」かの検証を続けている。

連載の紹介

その判決、正当?不当? 医療裁判深層リポート
メディアで報じられる医療訴訟の判決内容に対し、医療者側から批判的な声が寄せられることは少なくありません。眼科診療の傍ら医療訴訟の傍聴を重ね、裁判記録に丹念に目を通してきた「医療訴訟ウオッチャー」が、「どうしてそんな判決が?」という現場の疑問に明快に答えます。

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