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眼底造影検査アレルギー死亡訴訟
救急の経験豊富な開業医、気管挿管の遅れを追及される

2014/07/17
峰村健司

 前回までに、裁判の公開と裁判記録の閲覧の自由について説明いたしました。私はその裁判の公開原則を利用して、医療裁判ウォッチングをしているわけです。そんな中、第三者の裁判記録の複写が認められないことと並んで、医療裁判ウォッチングの大きな障害となっているのが、そもそも裁判がいつどこで行われるのか(あるいは行われたのか)を知ることが難しいという現実です。

 傍聴券の抽選が行われるような注目の裁判については、事前に裁判所ホームページに傍聴券交付情報が掲載されますが、それ以外の裁判の開廷について第三者が把握できる機会は、基本的には開廷当日の裁判所の掲示を確認することしかありません。

 時々、報道で医療訴訟のニュースが流れますが、多くの場合は事後報告であり、ニュースを見てから傍聴に出かけることはできません。もし報道記事に事件番号が書かれているのであれば、その事件番号を基に記録閲覧をすることもできますが、実際の報道では事件番号は紹介されませんから、報道されたからといってその事件を調べることは現実的には難しいものです。

 報道から事件番号を知ることができる場合としては、原告名・被告名の双方が明示されているケースがあります。原告名・被告名の双方が分かる場合には、裁判所でそれを提示すれば事件番号を教えてくれます。また、これは特殊な状況ですが、報道された事件の被告名を頼りに、私が裁判所に出かけるたびに事件番号などをメモしているノートを探したところ、そこに被告名の記載があったために事件番号を知ることができ、それによって記録閲覧を申請できたという事件もありました。

 そのような厳しい現状ですが、裁判所に足を運ぶことによって偶然に興味深い裁判を把握できることもあります。今日ご紹介するのは、連載第2回でご紹介した「死刑囚失明訴訟」の裁判記録閲覧のために名古屋地裁に出かけたときに、たまたまその日に開廷されていたため、裁判所の掲示によって事件番号を知り、その後に再び名古屋地裁に出かけて記録を閲覧できたという事例です。

◎眼底造影検査アレルギー死亡訴訟[名古屋地裁平成19年(ワ)第5278号,訴訟名は筆者の命名]
【事件の概要】
 原告は、事故当時73歳の男性の遺族。診療所にて加齢黄斑変性の精査のためにフルオレセイン蛍光眼底造影検査を施行したところ、造影剤投与後1分以内に咳嗽が始まり、5分後に心停止を来した。基幹病院に搬送され気管挿管されたが、最終的には12日後に亡くなられた。

【裁判に至った経緯】
 2006年(以下、同)10月30日、患者Aが視力低下にて被告医院受診。右眼加齢黄斑変性の診断でフルオレセイン蛍光眼底造影、インドシアニングリーン蛍光眼底造影を1週間後に予定。既往歴は気管支喘息(問診票に明記)で、心停止のリスクも含めて検査前説明がなされた。

 患者A は11月7日、眼底造影検査のため被告医院を受診した。同日の経過は以下の通り。

9:00 血圧184/89mmHg、脈拍60。再検後血圧181/91mmHg、脈拍59。
9:10 血圧170/81mmHg、脈拍56。不快感なし。
9:15 フルオレセイン、インドシアニングリーン皮内テスト施行。
9:20 OCT(光干渉断層計による非侵襲的検査)施行。
9:30 皮内テスト陰性確認。左正中に翼状針留置。生理食塩水50cc接続。
9:35 フルオレセイン1.5cc投与、その約46秒後に咳嗽出現

9:36ごろまでに呼吸困難増悪。アナフィラキシーショックを考え検査を直ちに中止。患者が自力でベッドに移り、酸素投与開始(約5L/分)。生理食塩水を酢酸リンゲル液(ヴィーンF)500mLに交換して全開滴下。
9:37 チアノーゼ出現(ただしこのカルテ記載に対しては疑義あり)、ソルコーテフ200mgを側管から注射。下顎挙上法により気道確保。頸動脈脈拍弱ってきた。チアノーゼ(疑義あり)。後に呼吸停止。マウスツーマウス人工呼吸の後、アンビューバックによる人工呼吸施行。脈拍さらに微弱になり人工呼吸継続。
9:40 心停止。0.1%エピネフリン0.4mg血管投与。心臓マッサージ開始。
9:50 0.1%エピネフリン0.6mg追加。ベニューラ針で血管確保、ヴィーンFをそちらにつなぎ替えて、翼状針を抜去。

9:51 救急車出動要請
9:55 救急車到着、心肺停止状態
10:00 救急車出発
10:01 除細動施行
10:02 心拍再開
10:03 基幹病院到着

2006年11月19日、意識回復することなく死亡した。

(注:9:37のチアノーゼについては疑義あり。眼科医院看護師がチアノーゼと考えてカルテに記載したが、担当医師にはチアノーゼの認識はなかった。救急隊記録にもチアノーゼの記載はなく、むしろ顔面紅潮との記載がある。なお、担当の眼科医は総合病院にて救急診療の経験が豊富であった)

著者プロフィール

峰村健司(順天堂大学大学院医学研究科博士課程、こはら眼科)●みねむら けんじ氏。1967年生まれ。東京大学理学部を卒業後、旅行会社勤務を経て、東大医学部に再入学。関東中央病院眼科部長などを歴任。診療や研究の傍ら、医療訴訟の傍聴・記録閲覧に出向き、判決が真っ当か「トンデモ」かの検証を続けている。

連載の紹介

その判決、正当?不当? 医療裁判深層リポート
メディアで報じられる医療訴訟の判決内容に対し、医療者側から批判的な声が寄せられることは少なくありません。眼科診療の傍ら医療訴訟の傍聴を重ね、裁判記録に丹念に目を通してきた「医療訴訟ウオッチャー」が、「どうしてそんな判決が?」という現場の疑問に明快に答えます。

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