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薬剤投与の遅れを認めた「血管攣縮麻痺訴訟」判決の不可解

2014/05/26
峰村健司

 医療裁判でどんな判決が出されているのかを知る上で、『判例タイムズ』や『判例時報』などの判例雑誌や書籍は便利なツールとなります。この春には、『医事法判例百選』(甲斐克則・手島豊編、有斐閣)という、医療に関する判例の解説書の第2版も出版されました。この本には、多くの最高裁判例をはじめ、医療に関する司法判断の実態を明らかにする裁判例が詳しく解説されており、法律の専門家以外の方でも興味深く読める内容になっています。

 さて、今回から2回にわたり、そんな判例雑誌などにも載っていないような民事医療裁判の最高裁判例をご紹介します。

◎血管造影血管攣縮麻痺訴訟[最高裁平成11年(受)第505号、訴訟名は筆者の命名]
【事件の概要】
 原告(一審原告、以下同)は、事故当時22歳の男性。若年性耳鼻咽喉血管線維腫を疑われ、血管造影検査を施行されたところ、麻痺と意識低下を来し、しばらく経過観察された後にグリセオールなどを投与されたが、右半身不全麻痺と運動性失語症状が残った。

【裁判に至った経緯】
 1990年10月某日、被告病院(一審被告が運営する病院、以下同)にて、右大腿動脈からセルジンガー法により外頸動脈造影を施行。13時11分に検査を開始し、13時50分ごろ終了。検査中に原告が軽度の悪心、腰痛、腹痛を訴えたが、特に処置を要することなくすぐに治まった。

 検査終了後、原告の名前を呼んでも返事がなく、眼振あり。Japan Coma Scale(JCS) 10。バイタルに異常はなく、担当医はペンタゾシンの催眠効果が続いているものと考えた。その後の経過は下記の通り。

14:00 検査室退室。担当医は、耳鼻咽喉科医師や病棟看護師には特に注意事項を伝えなかった。
14:30 眼瞼にチアノーゼを認めた。
14:35 JCS 30
14:50 呼びかけすると開眼するが、しばらくすると閉瞼。
16:00 開眼するが、質問に対する応答が見られない。
16:50 異常を感じた病棟看護師が、脳外科医師に診察を依頼。脳外科医師がグリセオールとソルコーテフ投与を指示。
17:20 JCS 200。右片麻痺、体やや硬直。CTを施行し頭部出血のないことを確認し、ウロキナーゼ6万単位を1日2回投与。これらを5日間継続し、意識レベルは回復。右半身麻痺と運動性失語症が残存した。

 後遺障害の程度は次の通りであった。

言語:思ったことをすぐ発言できない。ゆっくりとしか話せない。発音不明瞭、どもる。話し相手から「もう一度言ってください」とよく言われる。話の途中にあくびが出たりして相手に失礼がかかる。
:右手の5本の指をまっすぐに伸ばすことができない。指に触られても、どの指に触れられたのか区別がつかない。ペンや箸を右手で使うことができない。ネクタイも左手でしか結べない。職場でもワープロを打つことや帳簿の記入は左手でしか行えない。電話も左手だけで操作する。
右足:力が入らず、反射神経が鈍く、つまづいてよく転ぶ。転んだときに右足が前に出ず、右手でかばうこともできないので、ケガをする。横への動作が容易でなく、ゆっくりとしか横に移動することができない。
顔面:右顔面に感覚がない。顔に何かくっ付いても分からない。痛覚、触覚も通常の半分程度。

著者プロフィール

峰村健司(順天堂大学大学院医学研究科博士課程、こはら眼科)●みねむら けんじ氏。1967年生まれ。東京大学理学部を卒業後、旅行会社勤務を経て、東大医学部に再入学。関東中央病院眼科部長などを歴任。診療や研究の傍ら、医療訴訟の傍聴・記録閲覧に出向き、判決が真っ当か「トンデモ」かの検証を続けている。

連載の紹介

その判決、正当?不当? 医療裁判深層リポート
メディアで報じられる医療訴訟の判決内容に対し、医療者側から批判的な声が寄せられることは少なくありません。眼科診療の傍ら医療訴訟の傍聴を重ね、裁判記録に丹念に目を通してきた「医療訴訟ウオッチャー」が、「どうしてそんな判決が?」という現場の疑問に明快に答えます。

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