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「何年も裁判を続けてきてこの質問?」とあきれた瞬間

2014/03/25

 今回は、小児科の裁判事例を通じて、「裁判の公開」についてお話したいと思います。

 通常の裁判は、民事、刑事を問わず、原則として公開で行われます。これは、裁判が密室ではなく、公正に実施されることを担保するためといわれています。一口に公開と言っても、全ての記録をつまびらかにするのか、あるいは公正さを担保する意味合いで建前的に公開するのかという問題はありますが、その点については後の回で触れることとし、まずは裁判がどのように公開されるのかを見てみたいと思います。

 裁判を公開で行うことは、憲法で「裁判の対審及び判決は、公開法廷でこれを行ふ」と規定されています。実際、通常の医療裁判は原則として公開で行われており、だれでも傍聴することができます。また、裁判の中で扱われた主張書面、証拠類などについては、民事訴訟法で「何人も、裁判所書記官に対し、訴訟記録の閲覧を請求することができる」と規定しており、裁判で提出されたカルテ、意見書、文献はもちろん、戸籍謄本や、提出されていれば年収などの記録も、第三者であってもすべて閲覧できます。

 私が医療裁判の研究を始めたころには、全て閲覧できるという事実を知らず、あまりに何でも見ることができるため、強い驚きと戸惑いを感じたものでした。でも、慣れというのは恐ろしいもので、今では、第三者が記録閲覧をする場合に、閲覧はできるが複写は許されないという現状を訝るようになっています。

 マスコミを賑わす裁判ともなると、傍聴希望者が傍聴券を求めて列をなしている光景を、テレビで目にしたこともあるかと思います。しかし、民事の医療裁判は、ほとんどの場合は傍聴席はガラガラ、傍聴人は関係者のみという様相で、私自身、傍聴がかなわなかったという経験は、数えるほどしかありません。

急性脳症で障害残る

 今回は、そんな中でも傍聴席が満席になった異色の事件をご紹介します。私がこの事件を知ったのは、とある医療事故被害者のグループがブログ上で傍聴のお願いを掲載していたのを目にしたためです。当日の傍聴席はほぼ満席で、最前列に残った最後の一席にようやく滑りこんで傍聴することができたのでした。

◎横浜急性脳症訴訟[横浜地裁平成18年(ワ)第4639号、訴訟名は筆者の命名]
【事件の概要】
 原告は、事故当時1歳9カ月の女児とその両親。痙攣を発症して小児科を受診し、抗痙攣薬を投与されたものの痙攣が続き、総合病院を経て被告病院に転送された。被告病院でさらに治療を受けたが、最終的に脳障害を残した。

【裁判に至った経緯】(月日が省略されている場合は、直前に示された月日と同じです)
 ある年の6月1日、近医で麻疹予防接種を受け、同月9~10日に温泉旅行。10日に発疹が出現。11日に近医で麻疹と診断される。16日夕方から咳嗽出現。

 17日、未明から咳嗽増悪。17時40分、痙攣が出現し、近医受診。ジアゼパム坐剤を挿入するも痙攣が軽快せず、総合病院に搬送された。18時25分、総合病院に到着。痙攣は持続し、呼吸停止あり。意識レベルJCS 300。頭部CTでは明らかな異常所見を認めなかった。

 18時43分に自発呼吸が回復、痙攣は続いていた。19時10分に痙攣が消失したものの、19時30分に 痙攣再発し、被告病院への転院を決定。20時15分に 被告病院に入院した。このとき、痙攣は認めず、意識レベルJCS200、体温38.6℃、血圧84/48mmHg。夜から輸液、脳浮腫治療薬、抗菌薬、抗ウイルス薬の投与などを開始。フェノバルビタール坐剤を投与し、ナースステーションに隣接した病室に入れ、酸素モニターを装着した。

 翌18日の2時に、眼球右方偏位がみられた。右上肢部分発作があり短時間で消失。午前~午後、意識レベルJCS100~200、左上下肢はわずかに自発運動あり、右上下肢は弛緩。痙攣の再発は認めず。脳波では左大脳半球に非周期性高振幅徐波あり。CT、MRIにて特記すべき異常は認めなかった。以降の経過は下記の通り。

19日、痙攣の再発を認めず。対症療法継続。
20日、未明~朝にかけて右上肢部分発作を繰り返し、フェニトイン、ジアゼパムを投与するも部分発作が断続し、ペントバルビタール療法の開始を決定し、2mg/kg/時で開始。
21日、痙攣発作を認めず。ペントバルビタールを1.5mg/kg/時に減量。
22日、ペントバルビタールを1.0mg/kg/時に減量。
23日、ペントバルビタールを0.5mg/kg/時に減量。脳波に痙攣性突発波を認めず。
24日、MRIにて、左大脳半球に急性脳症に伴う信号異常を認める。
25日、不穏、興奮を疑わせる体動あり。鎮静のためペントバルビタールを0.75mg/kg/時に増量。
26日、不穏、興奮を疑わせる体動あり。ペントバルビタールを1.0mg/kg/時に増量。
27日以降は不穏、興奮を認めず、ペントバルビタールを徐々に減量し、30日に中止。
7月1日、頭部MRIにて左大脳半球の信号異常軽減、萎縮あり。意識レベル改善あり。急性脳症の急性期を離脱したと判断し、脳浮腫予防薬減量を開始。ICUから小児科病棟個室に転棟。
7月2日、経口で食事。4日、右上下肢麻痺に対してリハビリ開始。痙攣発作を認めず。表情豊かになる。17日、経口摂取良好で、経鼻胃管抜去。26日、外泊後に退院。

著者プロフィール

峰村健司(順天堂大学大学院医学研究科博士課程、こはら眼科)●みねむら けんじ氏。1967年生まれ。東京大学理学部を卒業後、旅行会社勤務を経て、東大医学部に再入学。関東中央病院眼科部長などを歴任。診療や研究の傍ら、医療訴訟の傍聴・記録閲覧に出向き、判決が真っ当か「トンデモ」かの検証を続けている。

連載の紹介

その判決、正当?不当? 医療裁判深層リポート
メディアで報じられる医療訴訟の判決内容に対し、医療者側から批判的な声が寄せられることは少なくありません。眼科診療の傍ら医療訴訟の傍聴を重ね、裁判記録に丹念に目を通してきた「医療訴訟ウオッチャー」が、「どうしてそんな判決が?」という現場の疑問に明快に答えます。

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