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医療制度改革のヒントを探る

第8回
医療サービスを過剰利用していないか

2010/07/13
ルードヴィヒ・カンツラ(マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク・ジャパン)

 財政の面から日本の医療を見てきたが、もう一方で考えなければならないのは、医療の提供に関するさまざまな課題である。

 日本の医療制度は、ユニバーサル・アクセス(患者が医療機関を自由に選択できる)とユニバーサル・サービス(すべての医療機関で均質的な医療サービスが提供される)をその特徴とし、世界的に見てもトップレベルの水準と言われている。これは日本の医療関係者の多大なる努力によってもたらされた成果である。

 しかし、最近では、「医療現場の崩壊」、「医師不足」、「コンビニ受診」、「救急たらいまわし」等々、医療の提供サイドに関するさまざまな問題がマスコミを賑わすことも少なくない。これらの背景には何があるのだろうか。

 医療の提供面について、以下の3つの切り口から、課題を探ってみる。

1.医療の需要と供給の量的バランス
2.提供される医療の質
3.医療提供の効率

1.医療の需要と供給の量的バランス
 人々が医療にどうアクセスしているかを分析してみると、日本の医療には以下のような傾向があると考えられる。
(1)患者の側に過剰な需要が存在し、かつ、患者による適切な医療機関の選択がなされていない。
(2)供給(病床の数、過剰診察の実施など)が需要を生んでいる側面がある。
(3)医療資源(病院・医師)の配置に偏りがある。

 これらが相互に影響しながら、提供面でのさまざまな課題を生じさせているのではないか、ということが我々が今回の分析を通して得た、現状に関する仮説である。以下、3つの傾向について検討する。

・医師不足の背景
 日本では、常々、医師不足が指摘される。この背景には何があるのだろうか。

 日本の人口当たりの医師数は、OECD諸国の平均に比べて実際に少ない。人口1,000人当たりの医師数は、OECD諸国の平均が3.0人であるのに対して、日本は2.0人であり、確かに日本では医師の絶対数が少ないと見て間違いない。したがって、医学部の定員枠の拡大、金銭的インセンティブの付与により医師を増員していくことは、今後の医療の向上にとって必要だろう。しかし、医師の数を増やすだけで、日本の医師不足は解消されるのであろうか。

 実は、日本の患者1人当たりの診察回数はOECD諸国と比べて非常に多い。外来患者1人当たりの受診回数は、OECD諸国平均が約7回/年であるのに対して、日本は約14回/年と約2倍である。仮に、人口当たりの医師の数が同レベルであっても、日本のように患者1人当たりの受診回数が多いと、当然、現場の医師たちは時間の余裕なく患者の対応に追われる、ということが常態化する。

著者プロフィール

ルードヴィヒ・カンツラ(マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク・ジャパン)●オックスフォード大学にて経済学修士・博士号取得。1995年より日本在住。2001年マッキンゼー入社。アジア諸国(主に日本)でのヘルスケア分野を主に担当。

連載の紹介

医療制度改革のヒントを探る
マッキンゼーが、日本国内の医療制度について2008年末に独自にまとめたレポート「医療制度改革の視点」の内容を順次紹介していきます。ぜひ一緒に考えてみてください。本連載の意義と目的については、こちらをご覧ください。

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