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喀血へのトラネキサム酸は院内死亡率を下げる
Critical Care誌から

2020/01/27
倉原優(近畿中央呼吸器センター)

 喀血に対するトラネキサム酸(商品名トランサミン他)は、カルバゾクロムアドナ他)と一緒に投与されることが多く、商品名の頭の2文字をとって「アドトラ」などと呼ばれています。

 大喀血しているときに、こういう止血剤を点滴しても“のれんに腕押し”で、気管支ブロッカーや気管支動脈塞栓術などの処置の方が重要なのは当然のことです。

 しかしトラネキサム酸は、ただの“おまじない”というほど弱い止血剤ではないことが近年明らかになっています。

 トラネキサム酸は、リジン類似物質であるεアミノカプロン酸(EACA)の約10倍の抗プラスミン作用を持つ物質として1960年に開発されました。トラネキサム酸にはプラスミンとフィブリンの結合を阻害する働きがあり1)、カルバゾクロムよりも止血効果が強いとされています。

 救急領域ではCRASH-2試験2)がよく知られており、重症出血を伴う外傷に対してトラネキサム酸を用いることで、総死亡率、出血死が有意に低下しました。受傷後3時間以内の早期に投与することが重要であることも示されています3)

 2018年に「吸入トラネキサム酸が喀血コントロールを良好にする」という研究結果4)が報告され注目を集めました(参考:吸入トラネキサム酸は喀血量を減らせるか?)。しかし、トラネキサム酸を全身投与したらどうか、という点についてはまだ結論が出ていませんでした。

 紹介する論文は、Critical Care誌に掲載された「トラネキサム酸が喀血患者の死亡率に与える影響:国内実態調査(Effect of tranexamic acid on mortality in patients with haemoptysis: a nationwide study)」です(Kinoshita T, et al. Crit Care. 2019 Nov 6;23(1):347.)。

 これは、日本国内のDPC入院患者データベースを用いた後ろ向き研究です。2010年7月から2017年3月の間に、喀血で緊急入院した全症例が解析対象となりました。全体はコントロール群、トラネキサム酸群(入院日に投与された症例)の2群に分けられました。プライマリーアウトカムに院内死亡率を設定し、セカンダリーアウトカムに入院期間と総医療費を設定しました。データは傾向スコアマッチを用いて評価されました。なお、18歳未満の患者や入院日に死亡した症例は除外されています。

 5万2543人がスクリーニングの対象となりましたが、緊急入院の履歴がないものや、他施設搬送例、死亡例などで約半数が除外され、2万8539人の喀血患者さんが解析対象となりました。1万7049人がトラネキサム酸を投与され(トラネキサム酸群)、1万1490人が投与されませんでした(コントロール群)。

 傾向スコア解析で、9933人ずつのマッチペアが作成されました。平均年齢は、トラネキサム酸群が72±14歳、コントロール群が72±13歳でした。それぞれ62.8%、63.3%が男性でした。

 喀血の原因疾患の内訳は、表1の通りです。約3分の1が特発性(はっきりとした原因が同定できないもの)でした。

表1 マッチ患者の喀血原因(文献より改変引用)

著者プロフィール

倉原優(国立病院機構近畿中央呼吸器センター呼吸器内科)●くらはら ゆう氏。2006年滋賀医大卒。洛和会音羽病院を経て08年から現職。自身のブログ「呼吸器内科医」を基に『ねころんで読める呼吸のすべて』(2015年)、『咳のみかた、考えかた』(2017年)などの書籍を刊行している。

連載の紹介

Dr.倉原の呼吸器論文あれこれ
倉原氏は、呼吸器病棟で活躍する若手医師。呼吸器診療に携わる医療従事者が知っておくべき薬や治療、手技の最新論文の内容を、人気ブログ「呼吸器 内科医」の著者が日々の診療で培った知見と共に解説します。呼吸器診療の最先端を学べる臨床連載です。

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