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吸入トラネキサム酸は喀血量を減らせるか?
Chest誌から

2018/12/10
倉原優(近畿中央呼吸器センター)

 トラネキサム酸(商品名トランサミン他)は、救急領域や一部の外科領域において、出血を抑制する効果があると報告されています1)、2)。となれば、内科で経験する出血も軽減するはずですが、今のところパッとしたエビデンスがないのが現状です。2016年のコクランレビュー3)によると、妥当なランダム化比較試験が2つしか見つからず、無理やり統合して解析したところ、トラネキサム酸は出血時間をプラセボよりも19時間ほど短くする効果があったそうです。呼吸器内科で喀血している患者さんに対しても、何の薬剤も投与しないというのがはばかられるため、多くの病院ではカルバゾクロムスルホン酸ナトリウム(商品名アドナ他)とトラネキサム酸の点滴が併用されています。この組み合わせを、通称「アドトラ」と呼びます。

 とはいえ、安易にトラネキサム酸を使うことが推奨されているわけではなく、静脈血栓症のリスクを増加させるという報告4)もあるため、適応を慎重に検討する必要があります。

 ところで、全身性ステロイドはいろいろな全身性副作用を起こします。そのため、呼吸器系のみに効かせたいという観点から吸入製剤が開発されました。β刺激薬も同様です。そこで、いっそのことトラネキサム酸を吸入させてみてはどうだろうか、と筆者らは考えました。これまでに同吸入治療薬が前向き検討されたことはありません。

 今回紹介する論文は、Chest誌に掲載された「喀血治療に対する吸入トラネキサム酸(Inhaled Tranexamic Acid for Hemoptysis Treatment: A Randomized Controlled Trial)」 Wand O, et al. Chest. 2018. pii:S0012-3692(18)32572-8.)です。

 登録されたのは、原因を問わず、喀血を起こして入院した患者さんです。

 大量喀血症例(24時間で200mL超の場合)、血行動態が不安定な症例、妊婦例、腎不全例(血清クレアチニンが3mg/dL超、あるいは透析を要する場合)、肝不全例、INRが2倍を超えて延長している例などは除外されました。なお、ベースラインで抗凝固薬を用いている場合は、出血コントロールができるまで投薬を中止されています。

 登録患者は、ネブライザーでトラネキサム酸500mg、1日3回とプラセボの生理食塩水1日3回を吸入する群にランダムに割り付けられました。この治療は基本的には主治医の裁量に委ねられる形で、最大5日間適用されました。

 プライマリアウトカムは、入院5日間の血痰の完全寛解、2群間における喀血量の差としました。セカンダリアウトカムとして、気管支動脈塞栓術などのインターベンションの必要性、外科手術の必要性、平均入院日数を設定しました。死亡率と喀血再発については30日後および1年後の2点で調べられました。

 47人の患者さんがランダム化され、トラネキサム酸吸入群(25人)、生理食塩水吸入群(22人)に割り付けられました。平均年齢は66±11歳でした。74%が男性で、64%が喫煙者でした。

 ちなみに本研究はヘテロ(背景が多様)な集団を見ているため解釈には注意が必要ですが、病棟で実際に経験する喀血も原因が様々であることや、約3人に1人が気管支拡張症を有しているという実臨床に合った患者背景(表1)を考えると、参考にはなりそうです。

著者プロフィール

倉原優(国立病院機構近畿中央呼吸器センター呼吸器内科)●くらはら ゆう氏。2006年滋賀医大卒。洛和会音羽病院を経て08年から現職。自身のブログ「呼吸器内科医」を基に『ねころんで読める呼吸のすべて』(2015年)、『咳のみかた、考えかた』(2017年)などの書籍を刊行している。

連載の紹介

Dr.倉原の呼吸器論文あれこれ
倉原氏は、呼吸器病棟で活躍する若手医師。呼吸器診療に携わる医療従事者が知っておくべき薬や治療、手技の最新論文の内容を、人気ブログ「呼吸器 内科医」の著者が日々の診療で培った知見と共に解説します。呼吸器診療の最先端を学べる臨床連載です。

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