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5/3放送 NHK『総合診療医ドクターG』から
航空機内で緊張性気胸の患者を救うには

2015/05/18

 前々回のこのコラムで再放送がオンエアされていた『総合診療医ドクターG』を取り上げましたが、案の定、新作が放送されました。しかし新シリーズではなく、単発のスペシャルのようです。とはいえ、待望の新作なので、期待が高まります。

 今回のドクターGは、この番組でもおなじみのER専門総合診療医、福井大学医学部付属病院総合診療部教授の林寛之先生です。そして取り上げるケースは、航空機内で「お客様の中にお医者様はいらっしゃいませんか?」という、こちらもおなじみのシチュエーションです。

 患者は32歳の男性で、「息が苦しい」と訴えています。医師が駆けつけると、客室乗務員が手際よくバイタルチェックをしていました。呼吸数は36回/分。バイタルは他に異常はありません。診断を進めたいところですが、当然、機内にはパルスオキシメーターは設置されておらず、聴診器もジェットエンジンの音でかき消されてしまって役に立ちません。

 問診をしてみると、特に目立った既往歴はありませんが、最近よく飲み物を飲んでトイレに頻繁に行くこと、1週間前にウサギと同居しはじめて咳をしていたことなどが聞き出されます。

 ここまでの情報で、3人の研修医から疑い病名が提示されます。「肺血栓塞栓症」「糖尿病性ケトアシドーシス」「大動脈解離」ときれいにバラバラになりました。

 ドクターGとのカンファレンスに移ります。ドクターGは「よくある疾患と怖い疾患を考えながら鑑別していきましょう」とコメント。まずは「肺血栓塞栓症」から。離陸後1時間という発症時間と、下腿の痛みがないことをドクターGは指摘しますが、とはいえ、典型的な症状がないからといって完全には否定はしません。

 続いて「糖尿病性ケトアシドーシス」ですが、これは飲んでいた飲み物が糖分の多いドリンクだったのではないかという推理です。機内であってもケトン臭で鑑別できるという、放送作家の心の中まで見透かしたような回答だったわけですが、ドクターGは「ケトン臭はなかった」と一蹴しました。

 「大動脈解離」は、もちろん怖い病気なので鑑別したいところですが、こちらも「激痛がない」ことから否定的です。

 ここでドクターGは「呼吸困難が起こる疾患を挙げて検討していきましょう」とホワイトボードに列挙を始めます。気胸、喘息、急性喉頭蓋炎、心筋梗塞、過換気症候群などが研修医から出され、実際の患者さんの症状と合うかどうかを順番に検討していきます。

 様々な可能性を除外し「肺血栓塞栓症」と「過換気症候群」の二つの可能性が残されたところで、客室乗務員から「離陸地まで引き返したほうがよろしいでしょうか」と迫られます。ここでドクターGは「あと10分間だけ時間をください」と回答を保留します。

 そしてドクターGは、苦しくてもゆっくり呼吸をするよう患者さんに伝えます。そのまま経過を観察したところ、呼吸困難は軽快したようで、結果的には「過換気症候群」がファイナルアンサーでした。

 あれあれ?やけにあっさり終わっちゃいますね、と思ったら、今回は久しぶりの新作スペシャルなので、ここでは終わりません。なんと同じ航空機内で、もう一人の患者さんが発生するのです。主訴は、さきほどと同じ「呼吸困難」。既に呼吸困難の可能性のある疾患は列挙されていますから、残りのオンエア時間を活用するにはもってこいですね。

 しかもなんと、発症したのは先ほど補助をしてくれていた客室乗務員です。さきほどは離陸後1時間でしたが、このときは離陸から4時間後、今回は着陸まで1時間という状況です。ちなみに、ハワイ行きの飛行機だったりします。

 今回の患者さんは左胸に痛みを訴えていること、呼吸が浅く、血圧が75/55まで低下しているという状況を見て、すぐにドクターGは着陸後に救急搬送の指示を出しました。ここで研修医のみなさんからの疑い病名の提示に移りますが、今度はきれいに「緊張性気胸」「気胸」「緊張性気胸」と診断名が揃います。しかし、気胸の症状である「胸の動きの左右差」「頸静脈の怒張」「首の皮下気腫」「気管の偏位」のどれも確認できません。

 さらに検討してみると、この患者さんには「肺血栓塞栓症」の可能性も出てきました。気胸であれば穿刺して脱気を行いますが、それが肺血栓塞栓症であった場合には、穿刺で病状を急激に悪化させてしまいます。逆に、肺血栓塞栓症であった場合には気管挿管してアンビューバッグを使うという処置になりますが、気胸であった場合には悪化させてしまいます。

 機内ではレントゲンやエコーはおろか、聴診もできない状況でどのように鑑別診断を行うのか。安易な決断は患者を致命的な状況に追い込む可能性もあります。研修医は、どうすべきか答えを出せないでいます。

 ここでのドクターGの選択は、すぐに穿刺ができる準備をしておいて気管挿管するというもの。気管挿管してアンビューバッグを使ってみると、気胸の典型的症状である「左胸の持ちあがり」「頸静脈の怒張」「首の皮下気腫」「気管の偏位」が次々に現れました。そこですかさず、ドクターGは、左胸の脇を切開して太めの管(カテーテル)を挿入します。さらには管の先端をペットボトルの水の中に差し込んで、空気の逆流を防ぐ処置まで行ったのです。

 こういった難しい状況下で限られた道具で工夫をこらし、すべき処置の異なる二つの疾患の可能性をどちらも捨てずに最後まで粘るというのは、本当に大事なことなんですね。ちょっと感動して鳥肌が立ってしまいました。

 ドクターコールがあったら、ためらわず手を挙げられる医師になってほしい、というのが今回のドクターGから研修医へのメッセージでした。林先生、カッコいい~。

著者プロフィール

くめ やすはる(薬剤師)●粂康晴氏。京都大学薬学部卒。大手製薬会社に20年以上勤務し、MR、研究開発、内部監査などを経験後に退社。糖質オフにこだわるレストラン「カーボオフ」を埼玉県の大宮にオープンした。

連載の紹介

くめやすはるの「健康番組タメツスガメツ」
テレビの健康番組にあおられて「私もこの病気じゃないかしら」と外来に押し寄せる患者たち。今週、テレビでどんなトンデモな健康番組が放映されたのかを、患者への説明に役立つ小ネタとともに、ご紹介します。

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