日経メディカルのロゴ画像

12/10放送 NHK『ためしてガッテン』から
ガッテン流「便失禁」の取り上げ方

2014/12/23

 いつも飛ばし気味の『ためしてガッテン』ですが、今回はちょっと固めのテーマで「便失禁」を取り上げていましたので、こちらを見てみました。

 まずは、便失禁になじみのないゲストに向けて、便失禁の実情を紹介。ゲストは誰も聞いたことがないと言っていましたが、便失禁でお悩みの方は国内で500万人とされています。これは、日本大腸肛門病学会誌に掲載された「本邦における便失禁診療の実態調査報告―診断と治療の現状―」から引用された数値だと思われます。割合で言うと、日本の65歳以上の7.5%、20~65歳の4%が過去1カ月に最低1回の便失禁を経験しているそうです。

 続いて、便失禁に関する患者さんの生の声を紹介。肛門周辺の便漏れ防止機能として、内肛門括約筋や外肛門括約筋、センサーなどといった説明を、模型を使ってしていました。こういう話は、やはり文字で読んで理解するには限界があるので、テレビで視覚的に説明してくれるのは助かります。まあでも、便失禁のメカニズムの説明が中心で、漏出性とか切迫性といった治療にかかわる病態の部分には触れませんでした。

 そして、便失禁の原因の話に進んだところで雲行きが怪しくなってきました。原因を肛門括約筋の損傷にフォーカスしたのはいいのですが、「出産時の肛門括約筋の損傷が原因であることが多い」という展開に持って行ってしまいました。

 先の論文によれば、便失禁の受診者は男性3割、女性7割であり、受診年齢(平均65±15歳)に男女差がなかったようですので、比較的女性に多い疾患ではあるようですが、論文には、便失禁の原因は「内肛門括約筋変性症を含む内肛門括約筋機能低下が35%と最も多く、次いで内・外肛門括約筋機能低下 21%、経膣分娩時肛門括約筋損傷 8.5%」とあります。出産時の損傷を、主な原因と言ってしまうのは、さすがに言い過ぎないんじゃないでしょうか。それじゃあ、男性の便失禁は原因不明のままですしね。

 でも、「原因は出産時の損傷」ということで深追いせず、治療法として、肛門括約筋形成術の紹介に進んでいきます。専門の病院に行けば1時間程度のオペで数日で退院できるようです。ここでは、日本大腸肛門病学会のウェブサイト日経メディカルの記事で取り上げられている「バイオフィードバック」や「仙骨神経刺激療法」はあまりきちんと紹介はしませんでした。

 このバイオフィードバック療法と仙骨神経刺激療法については、以前にこのコラムでも取り上げた、『たけしのみんなの家庭の医学』の説明の方が分かりやすかったですね。

 こちらの番組でも、その後にポリカルボフィルカルシウム(商品名コロネル、ポリフル他)が紹介されますが、この薬物治療が便失禁改善とどう関係してくるのか、はっきりとした説明がありませんでした。『たけしのみんなの家庭の医学』では、ちゃんと早い段階から「漏出性便失禁」と「切迫性便失禁」を説明していたので、軟便の改善も分かりやすかったのですが。

 ということで、今回の『ガッテン』は、かなり真面目に便失禁を取り上げていたんですが、「出産」に原因をフォーカスしすぎたばっかりに、全体が分かりにくくなってしまった印象です。とはいえ、密かに便失禁に悩んでいる高齢者の方が、この番組をきっかけに医療機関を受診してくれさえすればよいわけですから、健康番組としては十分に役目は果たしていたのかもしれませんね。

著者プロフィール

くめ やすはる(薬剤師)●粂康晴氏。京都大学薬学部卒。大手製薬会社に20年以上勤務し、MR、研究開発、内部監査などを経験後に退社。糖質オフにこだわるレストラン「カーボオフ」を埼玉県の大宮にオープンした。

連載の紹介

くめやすはるの「健康番組タメツスガメツ」
テレビの健康番組にあおられて「私もこの病気じゃないかしら」と外来に押し寄せる患者たち。今週、テレビでどんなトンデモな健康番組が放映されたのかを、患者への説明に役立つ小ネタとともに、ご紹介します。

この記事を読んでいる人におすすめ