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9/5放送 NHK『総合診療医ドクターG』から
ドクターG◆「人生最悪の腹痛」の正体は?

2014/09/12

 季節の変わり目で、体調を崩す方も増えそうな季節です。健康番組もそんなテーマが増えるのかな、と思ってみていましたが、最近の“流行”はどうやら「腹痛」のようでした。駆け込みドクター(8/24放送)、ドクターG(9/5放送)、主治医が見つかる診療所(9/8放送)と、いずれも腹痛を取り上げていました。各番組とも、単なる腹痛だと思ったら別の病気だった、というストーリー展開は同じですが、最終的な疾患はそれぞれバラバラでした。

 この3番組の中で、やっぱり群を抜いて面白かったのはドクターGでしたので、今週もドクターGを紹介します。ドクターGがどんな番組か、ご存じない方はこちらの回の前半をご一読ください。

 今回の症例は、「お腹の痛み」を訴える44歳の老舗旅館の女将さん。ドクターGは、地域医療機能推進機構の研修センター長である徳田安春氏です。

 まずは、再現ドラマ。今回は少し趣向が違って、再現ドラマ内に出てくる研修医が今回の症例を診てほしいとドクターGにお願いするところからスタートします。この女将さん、すでに他院でCT検査をして異常なしと言われたものの、症状が治まらず別の病院を受診したという設定です。研修医が既にレントゲン検査や心電図を取ったものの、異常は見つかっていません。

 そして、腹痛が始まったころの回想シーンに移ります。ここからは、いつものトラップが満載ですから、気をつけて。気になったところを太字にしてみますね。

 まずは、4日前の夕食時にお腹に違和感を感じてお腹の薬と風邪薬を飲むシーンから。夕食はとんかつのようです。お腹の薬は、以前から飲んでいる逆流性食道炎の薬、風邪薬を飲んだのは熱っぽかったからだそうです。ドクターGが逆流性食道炎について聞いてみると、ストレスが原因だとのこと。旅館の経営が芳しくなく、晩酌をするようになり、体重も増えたそうです。しかし、一番のストレスは、しゅうとめである大女将のいびりです。

 このときは、薬を飲んだら1時間ほどで症状は治まりました。その2日後に腹痛が再発したために近医を受診し、腸の痙攣を抑える薬をもらいました。しかし、翌日、またもや症状が再発し、今度は救急車で病院に運ばれたものの、CT検査で異常なしとされて帰宅させられた、というのがこれまでの経過です。

 ここでスタジオの研修医のみなさんが、1回目の疑い病名を提示します。今回は、いつにも増してヒントが少ない気がしますが、大丈夫なんでしょうか。目に見える異常は、微熱がある程度ですが。疑い病名の発表の前に、今回はゲストが「痛みがいろいろ変化してますよね」「背中の痛みや腰痛も気になりますよね」と、痛みについて語り出しました。何だか唐突で、ちょっと違和感がありますけども。

 3人の研修医からの提示病名は、「急性膵炎」「大動脈解離」「フィッツ・ヒュー・カーティス症候群」です。「フィッツ・ヒュー・カーティス症候群」とは「女性器からクラミジアなどが肝臓を包む膜に感染し炎症が起きる病気」だそうで、女性の腹痛の一因として注目されているようです(参考記事)。

 病院で造影CTをやったとすれば、大動脈解離が見つからないはずはないので、大動脈解離じゃなさそうだとか、フィッツ・ヒュー・カーティス症候群は2011年10月のドクターGで既に取り上げているから、これも違うだろうなあとか、色々と予想して楽しみます。あとは、急性膵炎ですが、実は同じ週の「主治医が見つかる診療所」で取り上げているんですよね。他局ではありますが、さすがにかぶらない(かぶさない)かなあ、とか。「3人とも不正解」が濃厚?

 ここから研修医とドクターGとのカンファレンス開始です。まず、ドクターGが言及したのは、激しい痛みを訴えた患者さんを診るときの「アラームサイン」。この患者は、「人生最大の痛み」「増悪する痛み」「拡大する痛み」を訴えていますので、これは何か重篤な疾患が隠れている可能性あります。ですから「急性腹症」として、きっちりと診断を進めていくべき、と解説がありました。

 そして、急性腹症での手術必要性の緊急度を検討していきます。カテゴリー1(数分以内に手術が必要)からカテゴリー5(経過観察)までにそれぞれ当てはまる診断名を列挙していき、それらの可能性をつぶしていきます。この過程で、3名の研修医が挙げた3つの病名は否定されました。

 再現ドラマが続きます。CT、レントゲン、心電図で、それぞれ、大動脈解離、腸閉塞、心筋梗塞がないことを確認します。続いてドクターGが気にかけたのが「微熱」です。周囲の従業員に風邪をひいていた人はいなかったけれど、旅館に宿泊していた客の中に風邪をひいていた子供がいたようです。

 ドクターGは、ここで腹痛が始まってから前かがみの姿勢が多くなったことに着目し、診断名が頭に浮かんだそうです。ちなみに、胃カメラも異常なし、血液検査も異常なしということがこの段階では分かっています。

 2回目の研修医からの病名提示は「結節性多発動脈炎」「フィッツ・ヒュー・カーティス症候群」「?」が挙がりました。フィッツ・ヒュー・カーティス症候群の診断は、3番目の研修医は引っ込めたのですが、代わりに(?)2番目の研修医が出してきました。人の答えをパクるという展開も珍しい気もしますが、疑い病名に「?」を出す研修医も今までいなかったかも。

 「?」を挙げた3番目の研修医を、ドクターGはほめていました。「分からないことを素直に認め、チームで解決するよう努力しましょう」と。分からないものを無理に診断しても、患者のドクターショッピングを助長するだけですからね。

 実のところ、残りの二人の研修医も、よく分からないながら無理やり書いた、とのこと。特に「結節性多発動脈炎」は、血液検査で炎症反応が陰性でしたし、ちょっと無理があります。

 そして、もう一度、これまでの経過を見直します。まず注目したのは「微熱」。子供の客が風邪を引いていたということでウイルス感染を疑います。続いて、レントゲン写真をチェック。何か見落とした陰影でもあるのか、と思いきや、「脊椎が曲がっている」との指摘。臥位での撮影ですが、にもかかわらず脊椎が曲がっているのは、痛みでおなかをかばうような姿勢をとったため、まっすぐに横になれなかったことを意味しています。この姿勢から、「筋肉の痛みなのではないか」と推測されるそうです。

 結局、再現ドラマにあったとんかつもストレスも関係なくて、最大のヒントは、ゲストが言っていた「痛みが気になる」というコメントだったようで。再現ドラマだけでなく、ゲストのコメントにもヒントが仕込まれているとは。新しい展開です。

 ということで、ウイルス感染と筋肉の痛みから、無事に「流行性筋痛症」という診断名にたどり着きました。この疾患、多くは免疫力によって自然に回復するとのことで、救急病院で帰宅の指示が出たこと自体は問題なかったことになります。

 しかし「人生最大の痛み」と表現される腹痛が、自然回復する疾患が原因だったとは。見逃してはいけない重篤な疾患を列挙しつつ、結局は痛み止めで軽快する疾患だったなんて、完全に視聴者の裏をかいた展開です。ある種の肩透かし。ちょっとモヤモヤしました。

 でも、再現ドラマの最後にあった「安心して普段の生活に戻ってもらおう」というドクターGの言葉で納得しました。だって患者さんは、ひどい病気だと診断されたいんじゃなくて、安心したくて医療機関を受診しているわけですから。よかったね、女将さん。

著者プロフィール

くめ やすはる(薬剤師)●粂康晴氏。京都大学薬学部卒。大手製薬会社に20年以上勤務し、MR、研究開発、内部監査などを経験後に退社。糖質オフにこだわるレストラン「カーボオフ」を埼玉県の大宮にオープンした。

連載の紹介

くめやすはるの「健康番組タメツスガメツ」
テレビの健康番組にあおられて「私もこの病気じゃないかしら」と外来に押し寄せる患者たち。今週、テレビでどんなトンデモな健康番組が放映されたのかを、患者への説明に役立つ小ネタとともに、ご紹介します。

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