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7/18放送 NHK『総合診療医ドクターG』から
ドクターG◆ヒントは患者の言葉の中に

2014/07/24

 これまでに、代表的な健康番組は一通り取り上げましたので、以降は各週で内容が一番面白かった(突っ込みどころが多かった)番組を選んで、順繰りに紹介していきたいと思います。

 今週は『ガッテン』か『ドクターG』か悩みましたが、いつにも増して「謎解き」の要素が多かったドクターGをチョイスしてみました。ドクターGがどんな番組か、ご存じない方はこちらの回の前半をご一読ください。

 今回の症例は「全身があちこち痛い」と訴える52歳の男性会社員。ドクターGは千葉大病院総合診療部の生坂正臣氏です。

 まず再現ドラマで語られるのは、会社で前任者の失策の責任を押し付けられて系列の工場に副社長として出向させられ、前任者は本社の取締役に昇進するというイントロです。どことなく半沢直樹の出演者に似た俳優さんを使って再現ドラマを作成しているあたりにNHKの遊び心が感じられます。でも、そこはNHKですから、司会者も半沢直樹のことなどおくびにも出しません。再現ドラマも、「いわゆる会社企業もの」なんて遠回しに表現してました。

 ドラマ『半沢直樹』で主役を務めた堺雅人さんに似たこの患者さんは、そんな仕事のストレスで、からだのあちこちの関節が痛くなり、家族からも「サボリ病だ」などと罵られ、どんどん会社に行くのがつらくなっていきます。再現ドラマでは、ストレスが高まる様子が、銀行融資や本社からの受注といったエピソードで描写されるのですが、これまた半沢直樹テイスト満載です。

 患者さんの訴えは、だるさ、手足の痛み、食欲不振、体重減少、朝の手のこわばりなど。マッサージを受けると体は軽くなるのですが、翌朝にはすぐにだるくなるとのこと。ここで3人の研修医から、第1回目の疑い病名の提示が行われます。

 まあ、打ち合わせ通りというべきでしょうか。「ランバート・イートン症候群」「関節リウマチ」「アミロイドーシス」と、いつものようにきれいに分かれました。ランバート・イートン症候群(イートン・ランバート症候群とも)という病気は、初めて耳にしましたが、筋力の低下を引き起こす自己免疫疾患なのだそうです。

 そして、いつものように、研修医が出したすべての疑い病名がドクターGに否定されますが、ここで関節リウマチを否定するロジックがスゴイ! 要は、「関節リウマチにしては、朝のこわばりの持続時間が短すぎる」ということ。再現ドラマをよく見ればそれを読み取れるはず、という展開なんですが……。

 朝のこわばりでベッドから出られない様子を描いた寝室の場面で、画面のはじっこに、さりげなく7時45分を指す時計が映っています。そして、着替えてダイニングにスマホをいじりながら降りてくるとき、BGMに綾香の「にじいろ」がかかっています。この曲、現在放映中のNHKの朝ドラの主題歌で、オープニングにかかるんです。だから、ダイニングに降りてきたのは、8時過ぎ。7時45分に起きて、8時にはスマホをいじってる。だから、朝の手のこわばりは15分以内に治っている。じゃあ、関節リウマチじゃないでしょうと。おお、名推理! って、これ、まるっきり謎解きクイズじゃないですか。

 番組は、再現ドラマが続いていきます。主人公は、本社からの部品の発注中止でストレスがさらに高まり、嘔吐、踏切での自殺未遂、地域の夏祭りで倒れるなどの症状が出現。2回目の病名提示に進みます。研修医からの提示は、「全身性エリテマトーデス」「混合性結合組織病」「副甲状腺機能亢進症」。やっぱり、きれいに分かれました。

 ここでドクターGは、症状の日内変動に注目していきます。「夕方になると仕事のペースが落ちる」というのは、うつ病の「朝がつらい」というパターンとは合わない。これは、副腎皮質ホルモンが関係しているんじゃないか。症状が休日に回復し、月曜日から週末にかけてだんだん悪くなっていくというパターンも、副腎不全の特徴と合致します。

 なるほど、再現ドラマにあった「月曜からは元気に出社しよう」という一言や、画面のテロップに表示されていた「火曜日」という字幕も、実は重要なヒントだったわけです。まるで、伏線があちこちに貼られた推理小説みたい。

 ドクターGと研修医のやりとりは、この副腎不全が、原発性か続発性かの議論へ。この患者は、当初から正常血圧であることが分かっていますが、副腎不全であれば低血圧になるのではないか、という研修医の指摘に対し、ドクターGは「原発性ではなく、脳下垂体の機能不全による続発性の副腎不全であれば、糖質コルチコイドだけに影響して鉱質コルチコイドには影響しない。結果的に血圧は下がらず、血糖だけが下がるので、この患者の病状の説明がつく」と解説します。

 その傍証として、患者が倒れたのは、糖質コルチコイドの不足による血糖値低下が原因だと推測されます。また、再現ドラマでは、患者がノリの佃煮を食べたがらないシーンがチラッとあったんですが、これで塩分低下がない(鉱質コルチコイドは正常である)ことを表現してるなんて、細かすぎて分かりっこありません。

 続発性副腎不全では、色素沈着がないのが特徴なので、次はそこを検証していきます。ここにもありましたよ。再現ドラマ内の超細かい伏線が。

 診察室で患者の腕が映るシーンがあるのですが、3日前の夏祭りで強い日差しを浴びていたはずのに、患者の腕に日焼けの跡が見当たらないというのです。確かに、夏祭りのときには長めの袖のシャツを着ていて、診察時には半袖シャツでした。ですから、腕に日焼けのあと(日焼けしたところとしていないところの境目)が見えてしかるべきなのに、どう見ても見当たらないと。だから、追加のメラニン反応が全く起きてないんだと。すいません。これは、ちょっと、やり過ぎじゃないでしょうか……。

 ということで、無事に「続発性副腎不全」という診断がつき、ドクターGから研修医にメッセージ。「患者さんが言っていた『月曜日になると元気になる』。こんな病気は副腎不全以外に思いつかない。患者さんの言葉を利用して医学的に考察して診断に導くのが臨床医の仕事。ですから、みなさん、患者さんの言葉を大切にしてください」。

 なーんだ。「月曜日になると元気になる」っていう患者の一言で、診断の目星がついちゃってたんですね。ドクターG、さすがです。

著者プロフィール

くめ やすはる(薬剤師)●粂康晴氏。京都大学薬学部卒。大手製薬会社に20年以上勤務し、MR、研究開発、内部監査などを経験後に退社。糖質オフにこだわるレストラン「カーボオフ」を埼玉県の大宮にオープンした。

連載の紹介

くめやすはるの「健康番組タメツスガメツ」
テレビの健康番組にあおられて「私もこの病気じゃないかしら」と外来に押し寄せる患者たち。今週、テレビでどんなトンデモな健康番組が放映されたのかを、患者への説明に役立つ小ネタとともに、ご紹介します。

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