腹痛に出血性ショックを伴う疾患はそれほど多くはない。これらを伴うのは若い女性に多く、中でも産婦人科系疾患の関与が主である。若い女性とは、一般的には妊娠があり得る年齢を意味するため10歳代後半から30歳代後半までを指し、時に40歳代前半までを考えなければならない場合もあるが、臨床現場では20歳代が主であることは前回に説明した通りである。また、若い女性の腹痛は、前述のように産婦人科系疾患に起因することが多いため、腹痛の部位は下腹部痛のことが多い。腹痛とショックを起こす疾患の鑑別診断については前回説明したので、今回は若い女性の下腹部痛について整理をする。
腹痛が真ん中か片側性かが鑑別の要点の一つ
若い女性の下腹部痛を診た場合の鑑別診断は以下の通りである。一般的には下腹部の真ん中を痛がる場合が多いが、時に片側性の場合もあり、その場合は産婦人科的疾患以外の可能性が高くなる。
【産婦人科系疾患】
1.不全流産
2.子宮外妊娠
3.卵巣出血
4.骨盤内感染症(PID:Pelvic Inflammatory Disease、クラミジア性感染症)
5.卵巣嚢腫茎捻転 → 片側性の場合もあり
6.月経痛、排卵痛
【産婦人科系以外の疾患】
7.急性虫垂炎 → 右下腹部
8.尿管結石 → 片側性(側腹部から下腹部)
医療面接(問診)では忘れずに性交の有無を確認
若い女性の下腹部痛は、不全流産、子宮外妊娠、卵巣出血、骨盤内感染症、卵巣嚢腫捻転、月経痛、排卵痛など、産婦人科系疾患の可能性が高いため、最終月経、妊娠の有無、最近の性交状況(最終性交、腹痛と性交の関係など)の情報が大切になってくる。この問題は聞かれる方も言いたくない場合があり難しい側面があるが、必ず必要な情報である。
鑑別診断では妊娠反応と腹部エコーも
若い女性の下腹部痛は、正確な最終月経・妊娠の有無・性交状況の情報があれば、腹痛部位と合わせ、概ね診断の予想は付く。しかし、これらの情報は必ずしも正確とは限らず、またそれらでは不十分なため、妊娠反応(尿検査)と腹部エコーの検査が必要となる。この際、腹部エコーは膀胱に尿がたまった状態でないと分かりにくいため、腹部エコー後に尿検査を施行すべきである。表1の通り、妊娠反応と腹部エコーと備考事項の情報を考え合わせば、ほとんど診断が付く。ただ、臨床現場では、妊娠がないことが明らかな場合は妊娠反応検査を行う必要はない。
表1の疾患中、月経痛・排卵痛と骨盤内感染症は客観的な確定診断法がない。ただ、月経痛・排卵痛は既往歴から概ね診断が付くこと、また骨盤内感染症は最終的には除外診断となるため、特に性交の既往が重要となる。
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著者プロフィール
河野寛幸(ERプロジェクト)●こうの ひろゆき氏。1986年愛媛大卒。福岡徳洲会病院救急総合診療部、救急センター長、福岡和白病院救急センター長を経て、2006年4月、救急医学教育のためにERプロジェクトを設立。

連載の紹介
【臨床講座】救急初期診療の12のポイント
救急疾患の中には、見逃すと致死的なものが少なくない。緊急的対応が求められる心血管系疾患と全身的主訴疾患を中心に、診断のポイントや初期治療のコツを紹介する。
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