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【連載第18回 意識障害の診断】
「意識障害=脳疾患」と短絡的に考えるな

2006/10/27

意識障害、失神、ショックの関係
 意識障害とよく似た病態に失神があるが、まず両者の違いを理解する必要がある。失神とは一過性の短い時間(通常は数秒から数分まで)の意識消失を意味するが、意識障害は意識消失がずっと続いている状態を指す。両者の病態は結果的には意識消失の時間の違いとして区別されるが、本質的(病態生理学的)には原因疾患の違いから生じていることを理解しておかなければならない。つまり、失神の原因としては心疾患や出血疾患のようなショックの原因となる疾患が重要であるのに対して、意識障害の原因は脳疾患、代謝疾患、脳症が重要になる。


意識障害を見たらまず何をすべきか
 意識障害のための鑑別診断は、前回に提示した「AIUEOTIPS」(アイウエオ・ティップス)である(連載第17回の「表1 意識障害の鑑別診断(AIUEOTIPS:アイウエオ・ティップス)」)。この中で最初に否定しなければならないものが「A:Alcohol」と「I:Insulin」である。なぜなら、ビタミンB1欠乏(アルコール依存症、ウエルニッケ脳症)に対するビタミンB1の投与、および低血糖発作におけるグルコースの投与は緊急性を要するからである。低血糖があり、アルコール依存症でビタミンB1欠乏も疑われる場合は、ビタミンB1を投与してからグルコースを投与することが推奨されている。

意識障害を診る際の来院時の必須項目とは
 では、意識障害の具体的な診断法について述べていく。まず来院時は、病歴聴取(症状も含む)とバイタルサイン、血液ガス、血糖検査、一般血液検査(血球検査、生化学、アンモニア)、心電図、胸部X線が必須である。この中で、一般血液検査以外は至急で結果を出すことができる。  

 意識障害の際に鑑別すべき疾患としてショック、低酸素血症、CO2ナルコーシス、低体温があるが、これらは緊急の初期治療が必要である。そのため、特にショックや低酸素血症では迅速な原因検索が必要となる。ショックの場合は、ショックの鑑別疾患に的を絞って迅速に診断および初期治療を行う。特に注意が必要なのは意識障害にショックが合併した場合で、「意識障害=脳疾患」と短絡的に考えてはならず、「脳疾患にショックなし」を肝に銘じておいてほしい。また、低酸素血症の場合は、必要に応じて気管挿管をして十分な酸素投与を行いながらその原因診断および初期治療をするべきである。

 前述した来院時の必須項目を行うことで、鑑別診断はかなり絞り込むことができる。次のステップとしては、意識障害以外の症状として、まず脳の巣症状をはじめとする神経症状の有無を診察する。神経症状が見られれば脳疾患、つまり脳卒中、脳腫瘍、脳膿瘍、慢性硬膜下血腫、てんかん、頭部外傷などが考えられる。脳疾患が疑われる場合は頭部CTを(必要なら頭部MRIまで)、頭部外傷の場合は頭部X線とX 線CTを行わなければならない。その際、重要な鑑別疾患の一つとして低血糖があるが、実際の診療の現場では来院時に血糖検査を行っていれば既に除外されているはずである。一般論として、脳の巣症状を診たときには必ず低血糖を除外しなければならないことをぜひ知っておいてほしい。

最後に残るのは精神疾患と薬物中毒
 神経症状がない場合、発熱があれば、中枢神経系感染症や敗血症などの感染症を考え、髄膜炎・脳炎が疑われる場合は腰椎穿刺を、敗血症が疑われる場合は血液培養を施行する。また脳症、つまり尿毒症、肝性脳症、高血圧性脳症、電解質異常、内分泌疾患などを起こし得る病歴や既往歴があれば、それらに関する症状、所見、検査を行う。さらに、高齢者の場合は、脱水・出血、感染症、心不全が軽度な場合でも、ボーとした、反応が鈍いような状態が起こるため、これらの疾患に気を付ける必要がある。特に、肺炎→脱水→意識障害という経過は良く見られるものの一つである。

 これらの方法で意識障害の原因を鑑別していくが、最後に残るのが精神疾患薬物中毒である。精神疾患の診断には既往歴だけではなく器質的疾患の除外が必要条件となるため、最後まで鑑別診断としては残ってしまう。また、薬物中毒は、意識障害の診断で難しいものの一つである。薬物中毒は薬物投与(内服)の事実または疑いがあれば疑うことは容易であるが、全くそのようなことがない場合でも否定できないことを知っておいてほしい。薬物中毒診断のための簡単な方法として「トライエージ」による尿検査があり、以下の薬物(表1)を調べることが可能である。ただ、疑陽性もあり判断が難しい場合がある。いずれにしても、良く分からない意識障害患者は必ず薬物中毒を疑い、尿検査をするべきである。

著者プロフィール

河野寛幸(ERプロジェクト)●こうの ひろゆき氏。1986年愛媛大卒。福岡徳洲会病院救急総合診療部、救急センター長、福岡和白病院救急センター長を経て、2006年4月、救急医学教育のためにERプロジェクトを設立。

連載の紹介

【臨床講座】救急初期診療の12のポイント
救急疾患の中には、見逃すと致死的なものが少なくない。緊急的対応が求められる心血管系疾患と全身的主訴疾患を中心に、診断のポイントや初期治療のコツを紹介する。

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