日経メディカルのロゴ画像

大阪のど真ん中に陽子線センターを作るわけ

2014/10/14

 今回のお題はつい先日、着工したばかりの陽子線センター。こういうhotというか、経営戦略そのものを披露せよとは日経メディカルも酷だが、私はオッチョコチョイなので書いてしまうのだ。

民間3施設目となる陽子線治療施設を起工
 大阪市此花区真花中(移転した大阪暁明館病院の跡地)に伯鳳会グループ最初にして最先端の放射線治療施設「大阪陽子線クリニック」を開設する。治療機器として陽子線治療機とIMRT(強度変調放射線治療機)各1台を装備。起工は2014年10月、開業は2016年7月を予定する。延べ床面積は2979m2、総費用は機械設備35億円、建屋15億円、計50億円を予定している。

 現在、粒子線(陽子線または炭素線)施設は全国に13施設が稼働中であり、そのうち純民間は2施設、総合南東北病院(福島県郡山市・陽子線)、相澤病院(長野県松本市・陽子線)にすぎない。われわれは民間3施設目の陽子線治療施設を背景人口600万人、大阪府の中心地、大阪環状線西九条駅近傍の交通アクセスの良い地区に開設することになる。

 粒子線治療施設は東高西低の分布であり、関西では西播磨の山間部、テクノポリスにある兵庫県立粒子線医療センターしかなく、大阪府、京都府、奈良県、和歌山県、三重県にはまだ1カ所の施設もない。アクセスの悪さにもかかわらず、県立粒子線センターには大阪、京都から多くの患者が詰めかけており、大阪市此花区に陽子線治療機が入れば一定数の患者様の確保を見込めると考えている。

陽子線治療への動機
 日本人の死因第1位が癌であることは言うまでもなく、今後も同じ状況が続くと考えられる。癌治療は、かつての大きく開胸開腹して癌を根こそぎ取るという拡大手術から腹腔鏡、胸腔鏡、内視鏡手術など低侵襲手術に移行している。さらにガンマナイフ、サイバーナイフ、IMRTなどの放射線治療、分子標的などの化学療法の進歩も著しく、固形癌の治療は手術だけではなくなっている。現在、固形癌治療のファーストチョイスは日本では70%が手術であるが、欧米では逆に70%が放射線治療となっているようである。

 患者にとって「低侵襲」「切らない」ということは治療選択の基準では「治る」という価値に次ぐものであり、人工肛門を要する疾患や乳房手術においては「治る」よりも価値が高いと感じる患者すらいる。医療がかつてのパターナリズムからインフォームドコンセントの時代になった以上、サービス業であるわれわれが提供する医療も「医師が良いと思う医療」から「患者が良いと思う医療」へと変わらざるを得ない。

 さらに、癌治療はインターネット社会の進展と国策誘導により、徐々に集約化が進んでいる。雑誌、インターネットのランキングや紹介記事により癌患者は以前には考えられなかったほど広範囲に移動している。外来で発見、健診で発見した癌患者を自院で治療しようとしても、患者はセカンドオピニオンその他を求めてワンダリングしていき、自院に留まらない場面が増えつつある。従って、癌治療に関しては先端的医療設備・医療技術を有し、相対優位を作らなければ将来、癌治療の担い手として存続できない可能性がある。死因第1位の疾患がわれわれのグループ内で取り扱えない状況に至ればグループの存続に大きな影響が生じる。

 新規入院患者の入院ルートには外来、救急車、紹介があるが、伯鳳会グループでは東京の白鬚橋病院を除いて、現在は外来が主体である。しかし高度医療、中でも癌などの「待てる急性期」は外来でピックアップした患者がそのまま入院するとは限らず、紹介を希望され自院に留まらないケースが増えつつある。入院患者が高度医療を受けない患者ばかりとなると入院単価が減少し、総収入は減少、経営に問題が生じる。また、癌治療が一次治療終了後の下請け的医療のみになればグループ内急性期医療のモチベーションダウン、パワーダウンは否めず、人材の吸引力も低下、負の循環に陥るであろう。

 癌患者を自院に引きとめることばかり考えず、逆に他院から紹介を受ける癌治療施設をグループ内に持てば問題は解決する。グループ内に高度先進医療である陽子線治療を行う施設を開設できれば、イメージアップや信頼感の向上につながり、治療選択肢の多様化より手術、化学療法などを行う他の患者はもとより、癌以外の患者の集患にも好影響が期待できる。

陽子線クリニックの問題点
 この事業計画には問題点もある。第一の問題はわれわれ伯鳳会グループに放射線治療の実績がないという人的問題である。陽子線治療には経験のある放射線治療医、医学物理士、診療放射線技師が必要であるが、全員をスカウトにて採用することは困難であろう。むしろ多数をコンサルティング会社に依頼して開始した人材育成プログラムにより採用していかなければならない。キーパーソンとなる医師派遣に関しては放射線治療の歴史と実績ある大学と密に連携し、大学放射線科のブランチとなる意識で運営しなければならない。

 次の問題は利益が出ないことである。必要資金が50億円の巨額に上るのに対して、年間収入が最大10億円程度しか見込めないのだ。治療費は診断費を含め300万円/人、1人15~20回の照射を行うが1回の照射にかかる時間は15~40分であるため350人/年が最大患者数である。従って総収入は10億円程度にしかならず資金の回転は極めて悪い(一般に病院は開設コストと年間収入が同額程度である)。

 収入が少ないことに加えリース料、メンテナンス費用、減価償却費が高額であるため、患者数300人/年までは実は赤字である。そのため一定期間資金を寝かせられる財務的な体力のある医療機関でなければこの事業は成立困難である。

著者プロフィール

古城資久(医療法人伯鳳会 赤穂中央病院代表者、理事長)〇こじょうもとひさ氏1958年岡山県生まれ。84年日大医学部卒業後、岡山大第2外科に入局。93年赤穂中央病院勤務、2001年伯鳳会理事長。大阪暁明館病院、東京の白鬚橋病院などの経営を継承し、グループの総ベッド数は1115床に。趣味はベンチプレスで、世界マスターズベンチプレス選手権で4回優勝し、世界新記録を1度樹立している。

連載の紹介

赤穂の風雲児 古城資久の急性期病院血風録
兵庫県の赤穂中央病院(265床)を拠点に、大阪府や東京都内でも医療・介護事業を拡大してきた伯鳳会グループ。その事業展開に加え病院運営面の改革でも注目を集めている理事長の古城資久氏が、自らの取り組みのほか、制度改革の荒波に揉まれる急性期病院の「今後」について語ります。

この記事を読んでいる人におすすめ