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私、モンスターペイシェント?

2018/07/17
中山祐次郎(総合南東北病院外科)

 こんにちは、総合南東北病院外科の中山祐次郎です。

 今回の切って縫うニュースでは、「東京医大-文部科学省裏口入学」疑惑を扱いたい……のですが、情報が少ないのでやめておきます。

 代わりに、私自身が受診した歯科医院で「モンスターペイシェント化」してしまった、かもしれない件をご相談いたします。今回切られるのは私です。

 さて、ちょっと近況を。今月は少し連載記事が遅れてしまいました。というのも、先日大学院の試験のなかでも最もハードな科目の試験があったからです。その科目名は「遺伝学」。私はいま、京都大学の公衆衛生大学院で学んでいますが、同時に遺伝学も勉強しています。専門の大腸癌はLynch症候群という遺伝性の疾患の患者さんが結構多く、これも一つの専門にしたいと思ったので。また、遺伝学は間違いなくこれからもトピックですから、一度俯瞰して学んでおこうという気持ちもあります。

 久しぶりの試験勉強をし、過去問を解くという作業。ああ、いつぶりかなこんなの……と思ったら、2年前に消化器外科専門医で3カ月くらい勉強したんでした。ゴロを作って、何度も手で書いて覚えて。久しぶりのこういう「強制インプット作業」はなかなかの苦痛でした。あまりの記憶力の悪さに、「いやあ、よく俺医学部受かったな、国試通ったな…」と思いますが、その頃の脳はいまより遥かに性能が高かったんですね。こういうインプットはこれで最後にしたいなあ。

 さて、先日のこと。

 HARIBOを食べていたら奥歯の詰め物が取れてしまった私は、近所の歯科医院に行くことに。しかし、4月に福島から京都に引っ越してきたばかりで、どこに行けばいいかわかりません。大学時代の歯科1学年上の先輩(所属していたサッカー部は医科と歯科の合同チームでした)が大阪にいて冷やかしがてら行きたいけど、ちょっと通うには遠い。そう思った私は、仕方なくgoogleで「京都市 歯科」と検索しました。すると、一応歯科医院はたくさん出て来るのですが、なんともはっきりしない情報ばかり。ネット上で、クリニックとか歯科医院を調べるのって至難の技ですね。だいたいが先生の顔と学歴、そして受付の雰囲気くらいしかわからないのです。

 仕方なく、近所の流行っていそうなところを選びました。そこで、とっても残念な思いをしたのです。

 問診票を書いて受付をし、入ってオサダだかモリタだかのあの例の椅子に座ります。すると、先生が来ました。

 アレ?ホームページに載っている先生と違う。おかしい……。バイトかな?そう思いつつも、マスクをつけているので顔をよく見ることもできず。
 
 「詰め物が取れたんですね」
 
 私の名前を確認することもなく、そして名乗ることもなくいきなりこう発言。
 
 「え?…あ、はい。そうなんです。コレです」
 
 戸惑いつつも、私は取れてしまった詰め物を渡します。

 「では、口の中を調べますね」
 
 そう言うと、いきなりオサダだかモリタだかの椅子が倒れました。いや、ひとこと言ってよ、倒しますとか……。そして口の中を丁寧に調べていきます。歯科衛生士さんがいないようで、先生は1人で口を見ては横を向き、紙に記録していきます。

 ああ、その手でペンと紙さわっちゃうんだ、そしてその手でもう一度私の口に……。

 外科医だからか、感染管理医師だからか、こういうのは敏感に感じてしまいます。百歩譲って、私の口の中は菌だらけだからいいけど、ペンと紙が汚いなあ、そう思いながら、やっと一周終わりました。
 
 「じゃあ、レントゲンを撮りましょう」
 
 「え?あ、はい」

 え?レントゲン?いきなり何で?と思いつつも、まあ歯科だと初診のときにレントゲン撮るしな、スクリーニングだろうな、と思いながら指示に従いレントゲンを撮りました。

 席に戻り、ふたたび例の椅子に座ります。椅子の前には壁だけがあります。患者は、ずっとこうやって壁を見てるのか。私の患者さんもそうなのかもな。そう思いつつ、待ちます。相手が壁だと、10分が1時間くらいに感じられました。まだかな、まだかな。

 やっと声をかけられました。

 「じゃあ、倒しますね」

 おお、今度は言ってくれた!けど、レントゲンがどうとか、これから何するとか言ってくれよ。というかあんた誰なんだ。そう思いながら、また口を開けました。

 その先生は私の奥歯にシューシューと風を吹きかけると、次にこう言ったんです。

 「はい、ちょっと痺れますよ」

 えっ?これは歯ぐきの表面を伝達麻酔で麻酔する薬……ということは、このあと麻酔を注射して歯を削るってこと?

 私は本当に驚きつつ、しかし口は開けていなければならないし、口に脱脂綿みたいなものは入れられているし、麻酔を舌で舐めてしまうと舌が痺れてしまうので何も喋れませんでした。

 「それじゃ、ちくっとします。麻酔ですねー」

 先生はそう言うと、私の歯ぐきに注射しました。アイタタタ……。

 椅子を起こされ、口をゆすいでいる間、私は考えていました。なぜ何も言ってくれないんだ?聞いた方がいいのか?

 再び椅子が倒れると、「ちょっと削りますね」の一言の後から、ビュイーンという音とともに私の歯が削られました。まあ、ちょっと調整するだけだよね。詰め物が取れただけだもんね。私は一生懸命そう自分に言い聞かせながら、されるがままになっていました。

著者プロフィール

2006年鹿児島大学医学部卒。都立駒込病院外科で初期・後期研修後、同病院で大腸外科医師(非常勤)として勤務。2017年4月から総合南東北病院外科に勤務。消化器外科専門医、外科専門医、がん治療認定医、マンモグラフィー読影認定医。

連載の紹介

中山祐次郎の「切って縫うニュース」
世の中の医療・医学に関連するニュースを、若手外科医がバッサバッサと斬りまくり。でも、社会の病巣にメスを入れるだけでなく、切ったところをきちんと縫うのも外科医の仕事。だから「切って縫うニュース」。きれいに縫えるか、乞うご期待。

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