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第27回 患者との信頼関係が揺らぐとき
信頼できない行動を取る患者をどう信頼するか

2022/01/11
岸見 一郎

(イラスト:田渕正敏)

 医師と患者との間に信頼関係がなければ、治療を進めることはできません。反対に、信頼関係が失われている場合は、医師が原則として診療を断ってはならないという応召義務の範囲を逸脱する状況として、患者を診療しないことが正当化されることがあります。

 応召義務を課せられないような信頼関係の喪失は、例えば患者による暴力・暴言や、診療とは関係ないクレームを繰り返し続けるというような限られた状況においてのみ認められます。

 今回考えたいのは、こうした滅多に起こらない状況ではなく、頻繁ではないとしても時に起こりうる、患者を「信頼できない」と医師が感じる状況において、患者にどう向き合えばいいかということです。

 患者を「信頼できない」と医師が感じる場面というのは、例えば、患者が診察の予約時間をいつも守らず、それに対して謝らないとか、薬を指示通りに飲んでいるといいながら実は飲んでいないといった状況です。また、治療上やめる必要のあるたばこや酒を隠れて嗜んでいるなど、医師に嘘をいうというような場合も考えられます。

 このようなことが続くと、医師は「この患者は信頼できない」と思うようになります。しかし、たとえそう感じたとしても、医師は原則として診察を拒むことはできません。問題は、信頼関係がなければ、適切に治療を進めることができないということです。このように、医師が患者を信頼できないと思ってしまう場面においても、どうすれば患者との信頼関係を築けるか考えなければなりません。

著者プロフィール

1956年京都生まれ。1987年京都大学大学院文学研究科博士課程満期退学。専門である西洋古代哲学と並行して、アドラー心理学を研究。2013年に古賀史健氏との共著で刊行した『嫌われる勇気』(ダイヤモンド社)は、200万部を超えるベストセラーに。精力的に執筆・講演活動を行っており、著書に『アドラー心理学入門』『幸せになる勇気』など多数。

連載の紹介

岸見一郎の「患者と共に歩む心構え」
こんな時、患者にどう向き合えばよいのか。患者の思いをどのように受け止め、どんな言葉を掛けるのか──。日常診療の中で直面する様々な場面において、対等な人間として患者と「共に歩む」ための心構えを、哲学者でありアドラー心理学を解説したベストセラー『嫌われる勇気』の著者である岸見一郎氏が、医療機関でのカウンセラーとしての経歴や、心筋梗塞治療を受けた患者としての経験なども交えつつ解きほぐしていきます。

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