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第23回 「必要以上」に薬に頼ろうとする患者への説明の仕方
不安で薬を多用する患者に向き合う三つの心構え

2021/09/07
岸見 一郎

(イラスト:田渕正敏)

 今回は、不安などで頻繁に、あるいは必要以上に薬を多用してしまう患者に、どう向き合えばいいかについて考えてみます。三つのことを考えなければなりません。

 まず、受診する患者は、基本的に誰もが「よくなりたい」と思っていることを、受け入れなければならないということです。

 熱や痛みは、たとえ高熱や激痛でなくても、強い不安をかき立てます。熱や痛みの原因がわからなければ、死ぬかもしれないと思って怖くなります。もちろん、我慢強く楽観的な人は、症状があってもきっとすぐによくなると考えるでしょうが、不安が現実化することを恐れて受診しないという場合もあります。

 私の母は、ある朝起きたら身体が麻痺していました。受診したところ脳梗塞と診断され、そのまま入院しました。その数カ月前から時折強い頭痛に襲われることがありましたが、決して受診しようとはしませんでした。もしもあの時、たとえ母が拒んでも受診させていたら大事には至らなかったかもしれないと、後悔しきりでした。母は楽観的だったのではなく、身体の異変に気づいていたからこそ、受診して死に至るかもしれない病名を告知されることを恐れていたのでしょう。

 よくなりたいと思うのであれば早く受診するべきなのですが、人は合理的に考えることができないものです。医師がこのような患者を診て、もっと早く受診するべきだったのにと思っても、「なぜもっと早くこなかったのか」というようなことはいってはいけないのです。

 他方、異変を感じればすぐに受診する人がいます。そのような人が後に、定められた用法用量を守らず必要以上に薬を服用するという問題を起こすことになるとしても、よくなりたいと思っていることは間違いありません。ただ、よくなるための方法の選択を誤っているのです。よくなりたいという思いに注目し、「自分の判断で薬を多用するのではなく、適切に服用すれば早く治る」という話をすれば受け入れられるはずです。

著者プロフィール

1956年京都生まれ。1987年京都大学大学院文学研究科博士課程満期退学。専門である西洋古代哲学と並行して、アドラー心理学を研究。2013年に古賀史健氏との共著で刊行した『嫌われる勇気』(ダイヤモンド社)は、200万部を超えるベストセラーに。精力的に執筆・講演活動を行っており、著書に『アドラー心理学入門』『幸せになる勇気』など多数。

連載の紹介

岸見一郎の「患者と共に歩む心構え」
こんな時、患者にどう向き合えばよいのか。患者の思いをどのように受け止め、どんな言葉を掛けるのか──。日常診療の中で直面する様々な場面において、対等な人間として患者と「共に歩む」ための心構えを、哲学者でありアドラー心理学を解説したベストセラー『嫌われる勇気』の著者である岸見一郎氏が、医療機関でのカウンセラーとしての経歴や、心筋梗塞治療を受けた患者としての経験なども交えつつ解きほぐしていきます。

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