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第18回 不安に押しつぶされそうな患者に対して何ができるか
病気への怒りと不安をぶつける患者への接し方

2021/04/06
岸見 一郎

(イラスト:田渕正敏)

 今回は、不安に押しつぶされそうな患者にどう関わればいいか考えてみましょう。

 患者にとって診察を受けることは怖いものです。医師のもとに意気揚々と出かける人はいないでしょう。私は心筋梗塞で倒れて以来もう15年ほど、2カ月ごとに受診しています。これまで一度も検査入院をする必要がなかったほど状態は安定しているので、今回の検査でも大きな問題を指摘されることはないだろうとは思っていても、検査結果を見て入院が必要であるといわれないかといつも不安になります。診察の最後に、胸と背中に聴診器を当てられ、無事であることを確認してもらってようやく緊張が解けます。

 私が心筋梗塞で倒れた時には、救急車で搬送されました。医師は心電図を見て、すぐに何のためらいもなく、心筋梗塞であるといいました。まったく予想だにしていなかったので私は大いに驚きました。こんなふうに死ぬとは思っていなかった、あっけない幕切れだと思いましたが、同時に、告知すべきかどうかについては、心筋梗塞の場合は問題にならないのかとも思いました。その時考えるようなことでもなかったでしょうが、自分に起きたことを客観視する余裕が少しはあったのかもしれません。安堵したわけではありませんが、病名を告げられてようやく、少し前から感じていた体調不良の原因がわかって合点がいきました。

 私の場合は、このまま死ぬかもしれないと思ったものの、すぐに手術を受けたので悩む間もありませんでした。しかし、しばらく不調の日が続いた後、ようやく決心して受診するという場合、しかも大きな病気に罹患していることがわかった時には、はたして治るのだろうか、治らなかったら家族はどうなってしまうのかと、不安に押しつぶされそうになるでしょう。病気になれば仕事どころではないはずですが、身を粉にして働いてきた人であれば、仕事を休むわけにはいかないと思って焦燥に駆られる人もいるかもしれません。

著者プロフィール

岸見 一郎●きしみ いちろう氏。1956年京都生まれ、京都在住。1987年京都大学大学院文学研究科博士課程満期退学。専門である西洋古代哲学と並行して、アドラー心理学を研究。2013年に古賀史健氏との共著で刊行した『嫌われる勇気』(ダイヤモンド社)は、200万部に迫るベストセラーに。精力的に執筆・講演活動を行っており、著書に『アドラー心理学入門』『幸せになる勇気』など多数。

連載の紹介

岸見一郎の「患者と共に歩む心構え」
こんな時、患者にどう向き合えばよいのか。患者の思いをどのように受け止め、どんな言葉を掛けるのか――。日常診療の中で直面する様々な場面において、対等な人間として患者と「共に歩む」ための心構えを、哲学者でありアドラー心理学を解説したベストセラー『嫌われる勇気』の著者である岸見一郎氏が、医療機関でのカウンセラーとしての経歴や、心筋梗塞治療を受けた患者としての経験なども交えつつ解きほぐしていきます。

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