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第10回 医師に全ての判断を委ねる患者の真意
患者の「お任せします」は信頼ではなく“催眠”

2020/08/04
岸見 一郎

 患者が医師に「お任せします」ということがあります。患者がそのようにいう時の真意はどこにあるかをしっかり見定めないと、患者とよい関係を築けず、そのことは今後の治療に影響を及ぼしかねません。

 患者はどんな時に医師に「お任せします」という気持ちになるのかといえば、まず考えられるのは、不治と一般に思われることがある病名を医師から告知された時です。寝耳に水ということもあるでしょうが、今はネットで病気について調べることができるので、受診する前から悪性の病気ではないかと予想して受診することもあるでしょう。検査を受けるようにいわれ、後日、結果を聞きに行くと、はたして医師からまさに予想していた病名を告知されると、その瞬間、生きた心地もしなくなります。

 それでも、たちまち絶望するわけではありません。診断が誤っているかもしれないと思いたくなります。しかし、それ以上に目の前にいる医師にすがろうと思うのです。「藁にもすがる思い」でカウンセリングにこられた人からいわれ、私は「藁」ではないといってみたくなったことは何度もありましたが、患者は無力感から全面的に頼りたいと思った時に「お任せします」というのです。

著者プロフィール

岸見 一郎●きしみ いちろう氏。1956年京都生まれ、京都在住。1987年京都大学大学院文学研究科博士課程満期退学。専門である西洋古代哲学と並行して、アドラー心理学を研究。2013年に古賀史健氏との共著で刊行した『嫌われる勇気』(ダイヤモンド社)は、200万部に迫るベストセラーに。精力的に執筆・講演活動を行っており、著書に『アドラー心理学入門』『幸せになる勇気』など多数。

連載の紹介

岸見一郎の「患者と共に歩む心構え」
こんな時、患者にどう向き合えばよいのか。患者の思いをどのように受け止め、どんな言葉を掛けるのか――。日常診療の中で直面する様々な場面において、対等な人間として患者と「共に歩む」ための心構えを、哲学者でありアドラー心理学を解説したベストセラー『嫌われる勇気』の著者である岸見一郎氏が、医療機関でのカウンセラーとしての経歴や、心筋梗塞治療を受けた患者としての経験なども交えつつ解きほぐしていきます。

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