日経メディカルのロゴ画像

第1回 「セカンドオピニオンを受けたい」といわれた時の受け止め方
セカンドオピニオンの相談は患者からの信頼の証

2019/11/05
岸見 一郎

 46歳で癌で亡くなった哲学者の池田晶子は、「医師と患者との間に、いま欠けていて、そして絶対必要なもの、それは『対話』である」といっています(池田晶子『魂とは何か』)。

 当然、患者と言葉を交わさなければ診察することはできませんが、当たり障りのない話をしても対話にはなりません。「対話」の原義はギリシア語の「ディアロゴス」(ロゴスを交わす)であり、この「ロゴス」はギリシア語では「言葉」であり「理性」という意味でもあります。

 一方的に、あなたはこんな病気だと伝えることでは対話にはならないということです。患者の方も医師がいうことだからと、理解も納得もできていないのに医師の言葉を受け入れるのでは、医師と対話をしたことにはなりません。

「この病気は死に至りうるものなのか」
「いつまで生きられるのか」

 このようなことを問うのは恐ろしく、患者から切り出すことはできません。医師の方も真実を伝えることをためらうでしょう。

 しかし、池田の言葉を借りると、医師も患者も語らなさすぎるのであり、不毛な膠着状態に陥っているのでは、対話は成立しません。「一線」を超えられた時、医師と患者は信頼し合えると池田はいいます。

 医師からすればまったく恐れるに足らない病気であっても、伝え方の如何によっては、今後長く続く患者との関係において、患者が医師を信頼できなくなるということはあり得ます。

 反対に患者が楽観視していても、実際には治癒が困難で死に至る可能性が高い時に、真実を包み隠さず伝える医師もいます。そうしなければ治療方針を伝えることができないということでしょうが、真実をそのまま伝えたら患者や家族がどう受け止めるだろうかという想像力も共感能力もないままに、医師が勝手に一線を超えてしまうと、患者や家族はそのような医師をもはや信頼することはできなくなるでしょう。

 医師と患者との間に信頼関係をとり結ぶことは容易なことではありません。本連載では、患者とどう向き合えばいいのか、どうすれば信頼関係を築けるのか、どんな言葉をどのようにかければいいか考えていきます。

著者プロフィール

岸見 一郎●きしみ いちろう氏。1956年京都生まれ、京都在住。1987年京都大学大学院文学研究科博士課程満期退学。専門である西洋古代哲学と並行して、アドラー心理学を研究。2013年に古賀史健氏との共著で刊行した『嫌われる勇気』(ダイヤモンド社)は、200万部に迫るベストセラーに。精力的に執筆・講演活動を行っており、著書に『アドラー心理学入門』『幸せになる勇気』など多数。

連載の紹介

岸見一郎の「患者と共に歩む心構え」
こんな時、患者にどう向き合えばよいのか。患者の思いをどのように受け止め、どんな言葉を掛けるのか――。日常診療の中で直面する様々な場面において、対等な人間として患者と「共に歩む」ための心構えを、哲学者でありアドラー心理学を解説したベストセラー『嫌われる勇気』の著者である岸見一郎氏が、医療機関でのカウンセラーとしての経歴や、心筋梗塞治療を受けた患者としての経験なども交えつつ解きほぐしていきます。

この記事を読んでいる人におすすめ