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被災地へのたばこの贈り物は悪か?

2017/10/04
木川 英(川越救急クリニック)

 少しずつ秋らしくなってきましたが、皆様はいかがお過ごしでしょうか。

 前回、スタッフへのインタビューを載せると予告しましたが、震災の話を書いている途中で思い出したことがあったので、今回はそちらを書こうと思います。

 宮崎駿監督が震災直後の気仙沼の漁業協同組合に、たばこの「贈り物」をしたという話題です。物資供給が不十分な被災地では、たばこの入手が困難になっていたようです。ヘビースモーカーの宮崎監督が、たばこを吸えないのはつらいだろうという思いから、提供したということです。受け取った漁師たちは「今はたばこがなかなか手に入らないので、ありがたい」と大喜びだったそうです。

 これに関して、一部は容認するような感じでしたが大半はバッシングでした。

 「何の役にも立たないものを送るな」
 「これ以上不健康な人を増やしてどうするのか」
 「現場の配慮に欠く行為だ」

 私自身、喫煙者ではありませんし、たばこは好きではありません。しかし、この宮崎監督の行為は批判されてしかるべき、という考えにはくみしません。

 つらい現実が迫っているときに、その苦痛から少しでも距離を置きたいと思って、きちんと喫煙室でたばこを吸っている愛煙家が、「健康に悪いから吸うな」と言われたら、そんなこと言われたくないと思うでしょう。

 さらに宮崎監督の話題を続けますが、『風立ちぬ』という映画で、喫煙シーンが多く描写されたことに対して、もう少し配慮してほしいと日本禁煙学会が「要望書」を出しました。子供たちに悪い影響を与えるのではないか、という批判的な内容でした。

 こうした批判に対し、映画業界関係者からは「喫煙シーンは当時の時代状況を描く上では必然的な演出であり、それがなければ作品の質が全く違ったものになる。団体がそうした表現に修正を求めるのは表現の自由を脅かす行為に相当する」との反論もなされています。

 また先日、2020年東京五輪・パラリンピックに向け、東京都が屋内を原則禁煙とする罰則付きの受動喫煙防止条例案を公表しました。小池百合子東京都知事が特別顧問を務める地域政党「都民ファーストの会」と都議会公明党の意向を受けたものです。

 政治家が受動喫煙のリスクを強調し、たばこ=悪にすることで一定の賛同を得るでしょうが、一服しながら飲食を楽しみたい人々や、実際それを楽しんでもらいたい飲食店側の意向を無視した決定だと思わざるを得ません。

 このように喫煙者=悪、非喫煙者=善とする善悪二元論に対しては、ハーバード大学のサンデル教授の「正義」に関する有名な授業があります(『ハーバード白熱教室』)。

著者プロフィール

木川英(川越救急クリニック副院長)●きがわ あきら氏。2005年東海大学医学部卒。茅ケ崎徳洲会総合病院(現:湘南藤沢徳洲会病院)初期研修医を経て、08年救急医を志し八戸市立市民病院救命救急センターに勤務。13年から現職。

連載の紹介

木川英の「救急クリニック24時」
全国有数の”救急過疎地”サイタマに開業した救急専門の診療所に助っ人としてやって来た木川氏が、現場で感じた地域医療の問題、患者側の問題、医療経営の問題等々を綴ることで医療界に一石を投じる。

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