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改訂された「認知症疾患診療ガイドライン2017」を読み解く
抗認知症薬の使用・選択の5つの考え方

2017/10/27

 2017年8月に「認知症疾患診療ガイドライン2017」(以下、診療ガイドライン)が発刊されました。今回は、このガイドラインに掲載されているアルツハイマー型認知症の薬物療法と改正道路交通法の記述に焦点を当て、批判的立場から私の意見を述べてみたいと思います。

アルツハイマー型認知症の薬物療法はどう変わった?
 アルツハイマー型認知症の薬物療法に関しては「CQ6-7 Alzheimer型認知症の薬物療法と治療アルゴリズムは何か」で解説されています。結論から述べますと、前回の認知症疾患治療ガイドライン2010ならびにそのコンパクト版2012の内容と全くと言ってよいほど変化がありません。つまり、この7年間でドネペジルをはじめとする抗認知症薬4剤で目立った新たな知見がないこと、既存の抗認知症薬以外に新薬が発売されていないことから、薬物療法の新たな展開は起きていないといえます。

 診療ガイドラインでは、コリンエステラーゼ阻害薬ならびにメマンチン、両者の併用に関して最近の文献的考察を加えていますが、それだけでは実臨床で抗認知症薬をどう選択したらよいかを判断することはかかりつけ医・非専門医の先生方にはできないでしょう。また、各薬剤の使用方法ならびに治療のアルゴリズムも現実的ではないと私は思っています。それがガイドラインというものだと言われてしまうならばその通りかと思いますが……。

実臨床で抗認知症薬を使用する際に悩むこととは
 アルツハイマー型認知症と診断し抗認知症薬を開始するとき、以下のようなことに臨床医の先生方は悩むことでしょう。

(1)コリンエステラーゼ阻害薬のいずれかが第一選択薬とされるが、どの薬剤を選択したらよいのか。

(2)診療ガイドラインでは、効果がないもしくは不十分、効果減弱、あるいは副作用で継続できなくなった場合には他剤へ変更することが記載されているが、効果がないあるいは効果不十分の目安、他剤選択への目安をどう考えればよいのか。

(3)中等度以降に進展している初診患者ではコリンエステラーゼ阻害薬、メマンチンのどちらを第一選択とするか、また、どのような段階で併用を開始すればよいのか。

(4)高度に進展した事例では、ドネペジル5mgから10mgへ増量すべきか、あるいはドネペジル5mgにメマンチンを併用するべきなのか。

 しかし、上記のような課題に対し、診療ガイドラインにその答えはありません。ガイドラインに答えを求める方が理不尽なのでしょう。私は実臨床では「別の視点」から抗認知症薬を選択し使用するよう心掛けています。

(1)コリンエステラーゼ阻害薬3剤で薬効に差異がないので、どの薬剤を選択するかの判断は、服薬介助を行う家族や周囲の人々の事情を勘案するようにしています。

(2)「コリンエステラーゼ阻害薬は患者の行動や感情、言動を活発化させる薬剤」「メマンチンはそれらを安定化するあるいはやや抑制する薬剤」との視点で標的症状を分析して両者の選択をしています。例えば、初診時にやや怒りっぽい、攻撃的である、イライラしている、夜間寝ないで騒ぐなどの症状が見られるときには、アルツハイマー型認知症の重症度に関係なく、メマンチンをまず処方するようにしています。一方、意欲や発動性に乏しく、終日ボーッとしている患者にはコリンエステラーゼ阻害薬のいずれかを選択しています。

(3)実際の臨床では、抗認知症薬の効果がない、不十分を判断することはほとんど不可能ではないかと私は考えています。アルツハイマー型認知症は緩徐進行性の変性性疾患です。抗認知症薬を服薬していても認知症は必ず進行・悪化していきます。その時のその患者さんの病態が「抗認知症薬の効果が不十分な結果」なのか、あるいは「抗認知症薬を服薬しているからその状態に留まっている」のか、実際には区別できないでしょう。なぜならば、同一の患者さんで抗認知症薬を服薬している場合としていない場合を比較することができないためです。

(4)コリンエステラーゼ阻害薬とメマンチンの併用は、図1の手順で行うようにしています。ポイントは、家族から「認知症症状が進んでいます。どうしたらよいでしょうか」と問われたときと、家族が困る行動障害・精神症状(BPSD)が出現あるいは増悪してきたときです。前者の場合、コリンエステラーゼ阻害薬あるいはメマンチンのいずれかが処方されていれば他方の薬剤を追加併用します。後者の場合、コリンエステラーゼ阻害薬だけが処方されているときにはメマンチンの追加し、メマンチンを既に服薬しているときには他の抑制系薬剤を追加併用するようにしています。

(5)高度アルツハイマー型認知症では、活発なBPSDが目立たない場合にはドネペジル5mgから10mgの増量、それらが確認される場合にはドネペジル5mgにメマンチンを追加併用することを原則としています。

著者プロフィール

川畑信也(八千代病院〔愛知県安城市〕神経内科部長)●かわばた のぶや氏。1979年昭和大医学部卒。国立循環器病センター、秋田県立脳血管研究センター、成田記念病院〔愛知県豊橋市〕を経て2008年より現職。愛知県認知症疾患医療センターセンター長も兼任。

連載の紹介

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2020年、患者数が325万人に達するといわれる認知症。患者数の増加に伴い、認知症の診療におけるプライマリケア医の役割が大きくなっています。著者が遭遇した実際の症例を紹介しながら、認知症診療の「いろは」を解説します。
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