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第95回 健常者とアルツハイマー型認知症の鑑別のポイント(1)
病歴からアルツハイマー型認知症を鑑別できるか

2017/06/09

 認知症を専門とされない先生方にとって認知症診療で最も厄介なことは物忘れを主訴に受診・相談に来た患者さんが、認知症に進展しているのか、あるいはいまだ加齢に伴う物忘れの段階なのか――の鑑別ではないかと思います。今回はこの鑑別に関して述べていきますが、結論から言いますと実臨床では両者を鑑別できない事例が少なからず存在します。なぜならば、加齢に伴って記憶を始めとする認知機能は誰でも低下してきます。その低下は、加齢に伴う物忘れから軽度認知障害、そしてアルツハイマー型認知症と1本の連続した線上に位置しています。ここでは、議論が煩雑になるので加齢に伴う物忘れとアルツハイマー型認知症との流れで考えてみますが、両者を厳密に区別する手段はないのです。その点を踏まえた上で、実臨床から見た両者の鑑別のポイントを病歴聴取の視点で述べてみたいと思います。

典型例は鑑別しやすい
 認知症に進展しているのか、あるいはいまだ加齢に伴う物忘れの段階なのか――。両者の鑑別は難しいと述べましたが、典型的な病歴を示しているような事例であれば鑑別しやすいのは当然のことでしょう。

 典型的なアルツハイマー型認知症を紹介しましょう。例えば80歳代で「数年前から(あるいはいつ頃かは分からないが)しまい忘れや置き忘れなどの物忘れ症状が見られ始め、この数年で物忘れは明らかに進行しています。最近は1時間前にごはんを食べたのを忘れて再び食事をしようとします。この半年で2回ほど迷子になって警察のお世話になりました」といった典型的な病歴が聴取できれば、この患者さんで「加齢に伴う物忘れ」の可能性を考えることはまずないでしょう。ほとんどの先生方はアルツハイマー型認知症と診断できると思います。

 一方、40歳代の患者さんで「最近、人の名前が出てこないのです。物覚えが悪くなった気がします。しかし、仕事の上では大きな失敗はなく、生活上でも問題はないのですが物忘れが心配なのです」と言われたときを考えてみます。健康である、病気ではないとの判断は実は大変難しいのですが、認知症の可能性を考えることはないだろうと思います。

 私の開設する物忘れ外来にも、かかりつけ医の先生方から、先に挙げた2例のうちの前者のような病歴を示す患者さんがしばしば紹介されてきます。どう考えてもアルツハイマー型認知症でしょうと考えられる患者さんです。私は、これくらい典型的な患者さんであれば、紹介してくれた先生の外来で診断をつけてくれればいいのにとつい考えてしまいます。

 なぜアルツハイマー型認知症として典型的な病像を示す患者さんをご自分の外来で診断されず、専門医療機関に紹介されるのでしょうか。私なりにいくつかの理由を想定しています。まず、認知症診療に関心がない、自分で診断をしたくないなどの理由から紹介をしてくる場合があるでしょう。これと関連し、多忙な外来で認知症に関した病歴聴取に時間を取られたくない気持ちが働くのかも知れません。3番目には認知症だとは思うが、自分の診断に自信がない、専門医療機関のお墨付きがほしいとの思いから紹介することもあるでしょう。

少し時間をとって病歴聴取を行う
 認知症診療で重要なことは、患者さんの生活状況をよく知る家族や周囲の人々からの病歴聴取です。病歴だけで認知症と判断できる患者さんがたくさんいます。75歳以降の高齢者でしまい忘れや置き忘れなどの物忘れに加えて物盗られ妄想が頻繁に見られる、迷子になって警察のお世話になった、1時間前に食事をしたのを忘れてまた食事を摂ろうとする、真夏なのにセーターを何枚も着ている、真冬に窓を開けたままストーブをつけている、深夜から明け方に無断で外出しようとする――などの行動や精神の変化を確認できれば、まず健常高齢者の可能性は低いでしょう。アルツハイマー型認知症を考えるべきです。

 確かにアルツハイマー型認知症の臨床診断には鑑別が必要ですので、うつなどの認知症に類似した病態を除外する必要はあるかと思います。しかし、認知症診療に長年関わってきた私の経験では、典型的なアルツハイマー型認知症は鑑別を要さないほど診断は容易だと断言することができます。

 多忙な外来のなかで認知症に関した病歴聴取に時間をかけたくない気持ちは理解できますが、典型的なアルツハイマー型認知症では、家族からアルツハイマー型認知症に特徴的な症状や支障を訴えられることが多いと思います。ですからそれほど時間をかけなくても、アルツハイマー型認知症として典型的な症状を確認することができる場合が多いでしょう。認知症診療をしよう、診断をしようとの前向きの気持ちがあれば、病歴からでも典型的なアルツハイマー型認知症の診断は可能なのです。

著者プロフィール

川畑信也(八千代病院〔愛知県安城市〕神経内科部長)●かわばた のぶや氏。1979年昭和大医学部卒。国立循環器病センター、秋田県立脳血管研究センター、成田記念病院〔愛知県豊橋市〕を経て2008年より現職。愛知県認知症疾患医療センターセンター長も兼任。

連載の紹介

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2020年、患者数が325万人に達するといわれる認知症。患者数の増加に伴い、認知症の診療におけるプライマリケア医の役割が大きくなっています。著者が遭遇した実際の症例を紹介しながら、認知症診療の「いろは」を解説します。
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