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第92回 認知症診療、それ本当ですか?(2)
PETやSPECTの結果から認知症診断は可能か?

2017/04/28

 アルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症などを診断する際、「医学的疾患であるから、エビデンスに基づいた診断をすべきである」「科学的根拠に基づいた診断が求められる」などと言われることがありますが、実臨床でそれは本当でしょうか。そもそも認知症の診断は白黒を明確に下すことが可能なのでしょうか。私は「否」と考えています。今回は、主として脳画像検査や神経心理検査などを基にした診断を取り上げ、この問題を考えてみたいと思います。

脳画像検査で認知症の診断ができるのか?
 認知症を診断するための脳画像検査は、CTスキャンやMRIに代表される「脳形態画像検査」と、PETやSPECTなどの「脳機能画像検査」に大別されることはよくご存じのことと思います。これらの脳画像検査で認知症を診断しようとする風潮が最近とみに高まってきているように私は感じます。その理由として、アルツハイマー型認知症に対する新たな抗認知症薬の臨床試験がことごとく失敗をしている事実が一因と推測されます。

 現在進められている臨床試験は、早期アルツハイマー型認知症、軽度認知障害あるいは臨床症状が発現する以前の病期(preclinical stage)に標的を絞ったものがほとんどです。そして臨床試験に組み入れる必須条件として、アミロイドPETやタウPETによる診断で「アミロイドあるいはタウが一定以上脳内に蓄積していること」が求められています。従って、臨床像からアルツハイマー型認知症と診断しても、PETでアミロイドやタウの沈着が基準を満たしていない事例は臨床試験から除外される決まりになっているのです。

 現行の臨床試験に限ると、まず臨床像からアルツハイマー型認知症を疑い、PETによってその診断を補強するという考え方ですから、診断様式はある程度納得のいくものです。しかし今後、アミロイドPETあるいはタウPETにかかる費用が安価となり臨床現場に広範に使用され始めると、これらのみでアルツハイマー型認知症を診断しようとする風潮が広まりやしないかと心配になります。

 認知症診断で最も重視すべき病歴や丁寧な問診・診察をおろそかにし、脳画像検査のみで診断しようとする医師が出てくる可能性が高いと思います。脳ドックあるいは認知症予防ドックなどと称して、健常者と思われる受検者をPETを用いて認知症の診断をしようとする医師が現れるかもしれません。脳内にアミロイドあるいはタウが沈着していても、(1)その時点で認知症症状を示していない事例が存在する、(2)沈着をしていてもそれが将来のアルツハイマー型認知症発症を必ずしも予見するわけではない――といった理由から、脳画像検査が認知症診断に万能ではないことを銘記しておくべきといえます。

 もう少し身近な、2つの視点からこの問題を考えてみます。1つ目は、「脳形態画像検査から認知症を診断できるあるいは診断しようと考えている医師が少数ながら存在している」という事実です。もの忘れが心配で、ある医療機関を受診したがMRI検査では「年齢相応の脳萎縮ですから認知症の心配はいらないでしょう」と言われて私の外来を受診してきて、診察をしてみると明らかに認知症に進展しているというケースが時折見られます。患者さんの状況をよく知る家族や周囲の人々からの病歴聴取や患者さんへの問診・診察を丁寧に行うことなく、MRI検査だけから認知症を判断しようとする誤った診療姿勢と言わざるを得ません。患者さんや家族の側から考えると、脳の画像検査というしっかりした医療機器で診療してもらった結果だからと信用してしまい、しばらく医療機関を受診しなくなってしまうということも考えられます。その結果、認知症の発見が遅れることになるのです。MRIという科学的検査を偏重した結果ともいえます。

 2つ目は、しばしば脳SPECT検査が認知症診断に役立つと言われ、脳SPECT検査を用いて認知症の診断を下そうとする医師がいることです。私も前任地の病院で脳SPECT検査を数千名の患者さんに施行し診断の手助けにしてきました。しかしながら、病歴と問診・診察(これらに神経心理検査を加えてもよいのですが)でアルツハイマー型認知症と診断される患者さんにあえて脳SPECT検査を施行する必要はないと考えています(なぜなら病歴や問診などで臨床診断をつけることは可能だからです)。仮にこの患者さんに脳SPECT検査を施行し、アルツハイマー型認知症に特徴的な血流異常が得られたとしても、患者さんには単に金銭的な負担が増えるだけにすぎませんし、医師が典型的な脳機能画像だなという満足感を得る以外になんら意味はないといえます。

 一方、病歴ならびに問診・診察から認知症か否かの判断ができない患者さんに脳SPECT検査を施行し、アルツハイマー型認知症に特徴的な血流異常が検出されたとき、アルツハイマー型認知症との診断を下してよいでしょうか。確かにアルツハイマー型認知症の初期である可能性はあるかと思いますが、認知症に進展していない場合も完全には否定できません。なぜならば、軽微あるいは軽度の認知機能の低下をもつ患者さんでは仮に脳SPECT検査で血流異常が観察されてもごくわずかの変化であり、病的と判断するか生理的範囲内と考えるかは医師の判断によってしまうからです。病的か否かに関して恣意的な判断になる場合も少なくありません。そもそも脳SPECT検査で検出される血流異常についてどこからアルツハイマー型認知症で、どこまでが非認知症(生理的範囲)なのかの明確な判断基準はないのです。

著者プロフィール

川畑信也(八千代病院〔愛知県安城市〕神経内科部長)●かわばた のぶや氏。1979年昭和大医学部卒。国立循環器病センター、秋田県立脳血管研究センター、成田記念病院〔愛知県豊橋市〕を経て2008年より現職。愛知県認知症疾患医療センターセンター長も兼任。

連載の紹介

プライマリケア医のための認知症診療講座
2020年、患者数が325万人に達するといわれる認知症。患者数の増加に伴い、認知症の診療におけるプライマリケア医の役割が大きくなっています。著者が遭遇した実際の症例を紹介しながら、認知症診療の「いろは」を解説します。
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