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第85回 臨床医にとって認知症治療で大切なことは何か(3)
抗認知症薬を処方する際の3つの悩み

2017/01/06

 認知症の治療を行う際、ガイドラインは必ずしも実臨床では役に立たないこと、臨床試験と現場の治療では異なることが多いことを述べてきました。今回は、実臨床では抗認知症薬の薬効評価が難しいこと、個々の事例によって抗認知症薬の効果は異なること、薬剤の効能・効果に記載された用量に必ずしもこだわる必要はないかもしれないことの3点について考えてみたいと思います。

【1】抗認知症薬の薬効を実臨床で評価できるのか
 いずれの抗認知症薬も認知症症状の進行抑制効果を期待して使用されているのだと思いますが、先生方が実際に処方されて「この患者さんは認知症が改善したな」と感じる事例はどれほどあるでしょうか。

 多くの場合、抗認知症薬を処方しても臨床像が良い方向に変化した事例を経験することは少ないのではありませんか。逆に多くの事例では抗認知症薬を服薬していても認知症症状は進行・悪化していく場合が多いと思います。だからこそ、「抗認知症薬は副作用ばかりで役に立たない」「害ばかりで処方する価値はない」と極論を述べる医師が出てくるのだろうと思います。
 
 抗認知症薬を評価する方法は、服薬前後での臨床像を観察するか、改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)に代表される神経心理検査を施行し得点の推移をみるかの2つです。アルツハイマー型認知症は、診断が正しければ必ず進行・悪化していく性質を持つ疾患であるという視点で見ると、抗認知症薬を服薬していてもある程度の期間を経ると認知症症状は進行・悪化していきます。ですから抗認知症薬の薬効を評価することは、実際には困難な場合が多いのです。

 一方、神経心理検査を使用した場合はどうでしょうか。図1は、ドネペジルを服薬しているアルツハイマー型認知症146人でのADAS-J cog.下位項目について1年後の変化を示したものです。ドネペジル服薬開始前に比して有意に改善していた下位項目は、呼称と構成、単語再認の3つです。しかし、最も改善している単語再認でも変化幅は0.5点にも届きません。実臨床で個々の患者さんにADAS-J cog.を施行した場合、評価は1、2点などであり、小数点以下の点数は出てきません。したがって実臨床では0.5点の改善効果を実感できないことになります。抗認知症薬の肩を持つ立場で述べると、現在の抗認知症薬はいずれも根治的な薬剤ではないことから、これくらいの効力しか発揮できないともいえます。さらに認知機能というある意味であやふやな領域を客観的に評価するためには、数字で結果を出せる神経心理検査あるいは生活機能や介護者負担を評価するしか方法がないのです。

著者プロフィール

川畑信也(八千代病院〔愛知県安城市〕神経内科部長)●かわばた のぶや氏。1979年昭和大医学部卒。国立循環器病センター、秋田県立脳血管研究センター、成田記念病院〔愛知県豊橋市〕を経て2008年より現職。愛知県認知症疾患医療センターセンター長も兼任。

連載の紹介

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2020年、患者数が325万人に達するといわれる認知症。患者数の増加に伴い、認知症の診療におけるプライマリケア医の役割が大きくなっています。著者が遭遇した実際の症例を紹介しながら、認知症診療の「いろは」を解説します。
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