日経メディカルのロゴ画像

第84回 臨床医にとって認知症治療で大切なことは何か(2)
私が考えるメマンチンの上手な使い方

2016/12/23

 前回の連載では、ガイドラインやメタ解析は進むべき方向を示してくれますが、実際にどの道を選択したら良いかは教えてくれないことを説明しました。引き続き今回も、実臨床での抗認知症薬の使用について考えてみたいと思います。

コリンエステラーゼ阻害薬とメマンチンの併用療法は本当に有効なのか?
 多くの先生方は、アルツハイマー型認知症と診断後にコリンエステラーゼ阻害薬のいずれかをまず処方していると思います。そして、その後、認知症症状の進行悪化あるいは行動障害・精神症状(BPSD、周辺症状)が発現・増悪(易怒性や暴言など)したときにメマンチンを追加併用する場合がしばしばあるでしょう。私もそのような処方手順を踏襲する事例をたくさん経験しています。

 しかし、実臨床ではコリンエステラーゼ阻害薬とメマンチンとの併用効果をなかなか実感できないもどかしさを感じることがよくあります。この点に関してGeriatric Medicine(老年医学)11月号に、メマンチンの市販後製造販売後臨床試験の結果が掲載されています(中村祐ら、Geriatric Medicine 2016;54:1147-1158)。論文の結論だけを述べますと、「主要評価項目であるSIB-Jスコアの変化量でドネペジル単独群に対するメマンチン+ドネペジル併用群の有意な効果は示されなかったものの(p=0.2437)、SIB-Jスコアの変化量の点推定量はメマンチン+ドネペジル併用群が高かった」と記載されています。詳細は論文を読まれるとわかるかと思いますが、ドネペジル単独群とドネペジル+メマンチン併用群間の比較で認知機能障害の進展抑制効果に大きな違いがなかったことが論文の主旨かと思われます。

 論文を読むと併用群の有効性をなんとか強調したいためでしょうか、苦しい論理を展開しているように感じるのですが、私は、この論文の結果は実臨床の真理を突いているようにも感じています。臨床試験に含まれる患者さんの背景は多様です。年齢や生活様式、身体疾患の合併やその重症度、服薬の良否、試験中の合併症の発現、介護家族の状況など多くの要因が複雑に絡み合った中での評価といえます。

 表1に実臨床での評価と臨床試験との違いを示しました。臨床試験は、計画した製薬会社にとって良い結果が出るようにデザインされるのですが、実臨床は、全く別物といえます。実臨床では年齢制限がありませんから90歳を超えた患者さんにも処方することがあります。悪性腫瘍をはじめとする多彩な身体疾患を持つ患者さんも含まれます。介護環境が不良、たとえば独居患者さんにも使用せざるを得ないなど、臨床試験と違い条件が不良な場合が多いのです。従って、ある薬剤を使用した結果が臨床試験と異なるのは当たり前かもしれません。

著者プロフィール

川畑信也(八千代病院〔愛知県安城市〕神経内科部長)●かわばた のぶや氏。1979年昭和大医学部卒。国立循環器病センター、秋田県立脳血管研究センター、成田記念病院〔愛知県豊橋市〕を経て2008年より現職。愛知県認知症疾患医療センターセンター長も兼任。

連載の紹介

プライマリケア医のための認知症診療講座
2020年、患者数が325万人に達するといわれる認知症。患者数の増加に伴い、認知症の診療におけるプライマリケア医の役割が大きくなっています。著者が遭遇した実際の症例を紹介しながら、認知症診療の「いろは」を解説します。
この連載が本になりました!
『プライマリ・ケア医のための 認知症診療入門』
好評発売中

 2013年5月から連載を開始した「プライマリケア医のための認知症診療講座」がこのたび書籍化されました。2016年2月末までに掲載された記事を「診断編」「治療と介護編」「周辺症状編」に分類。さらには、日常診療で感じた疑問をすぐに解消できるよう、Q&A形式で再構成しました。
 Q&Aの数は全部で65個。どこから読んでも理解できるよう、1つのQ&Aだけで解説が完結する形に再編集しました。ぜひ日常診療にご活用ください。(川畑信也著、日経BP社、4644円税込み)

この記事を読んでいる人におすすめ