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第64回 運転免許更新時の臨時適性検査とその診断から見た認知症診療
臨時適性検査と医学的診断を下す際のリスクは?

2016/02/19

 前回説明したように、2015年に改正道路交通法が国会を通過し、2年以内に施行されることが決定しています。運転免許の更新を希望する75歳以上の方で、講習予備検査(認知機能検査)で第1分類(記憶・判断力が低下している者)と判断された受検者は、無条件に医師の診察を受け、認知症の有無について医学的な判断を求められることになります。2014年には5万人以上がこの第1分類と判断されており、年々1万人ずつ増えていくだろうと予想されています。この第1分類と判断された受検者の医学的診断をかかりつけ医・非専門医の先生方にも施行してもらうことを、恐らく国は考えているのではないかと思います。今回はこの臨時適性検査と医学的診断を下す際のリスクについて考えてみたいと思います。


臨床診断を下すには長い診療時間を要する
 認知症診療では一般的に診療時間が掛かるといわれていますが、運転免許更新で第1分類と判断された受検者の診療にはさらに時間が掛かると予想されます。なぜならば、そもそも家族が受検者について認知症との認識がないために病歴聴取に苦慮する、または認知機能障害が軽度の場合が多く、患者さんの問診に時間が掛かるからです。そして何よりも時間を掛けないといけない理由として認知症と診断とした根拠を強固に構築しておかないと、その後のクレームや訴訟への対策に困ることが挙げられます。

 私の施設では、第1分類と判断された患者さんの認知症の有無に関する診療には1人2時間以上、場合によっては3時間以上を費やしています。身体疾患の診療に多忙なかかりつけ医の先生方が、1人の患者さんについて1時間以上もかけて診療を行うことが果たして可能でしょうか。


裁判沙汰になる可能性を否定できない
 自分はきちんと運転ができる、あるいは運転している、免許更新に支障はない――と受検者が考えていても、認知症と診断されると運転免許の更新が不可能になり、免許証の交付がされません。そのときに大部分の受検者は納得するかと思いますが、ごくわずかの方は医師の診断に納得せず、訴訟に持ち込む可能性があると想像されます。

 私も現行の臨時適性検査を施行していますが、現在までに1件、アルツハイマー型認知症と診断した事案で「裁判に訴える」と言われたことがあります。幸い、その事例では訴訟に持ち込まれることはありませんでした。患者さんは裁判に訴えると強硬に主張していましたが、奥さんが私の診断に納得してくれたので訴訟をさせないように家族内で努力してくれたようです。

 私の施設では、神経心理検査に長年従事している専門職が2時間近くかけて多数の神経心理検査を行い、さらにMRIや脳SPECT検査などを施行し診断を下しています。認知症と診断した医学的な根拠を積み重ねることで診断の疑義に対応できる体制を敷いています。しかし、病歴と問診・診察に改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)が主な診療スキルであろうかかりつけ医の先生方にとって、裁判やクレームに耐えうる診断根拠を集積することは困難なことが多いのではないでしょうか。

著者プロフィール

川畑信也(八千代病院〔愛知県安城市〕神経内科部長)●かわばた のぶや氏。1979年昭和大医学部卒。国立循環器病センター、秋田県立脳血管研究センター、成田記念病院〔愛知県豊橋市〕を経て2008年より現職。愛知県認知症疾患医療センターセンター長も兼任。

連載の紹介

プライマリケア医のための認知症診療講座
2020年、患者数が325万人に達するといわれる認知症。患者数の増加に伴い、認知症の診療におけるプライマリケア医の役割が大きくなっています。著者が遭遇した実際の症例を紹介しながら、認知症診療の「いろは」を解説します。
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 Q&Aの数は全部で65個。どこから読んでも理解できるよう、1つのQ&Aだけで解説が完結する形に再編集しました。ぜひ日常診療にご活用ください。(川畑信也著、日経BP社、4644円税込み)

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