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第60回 アルツハイマー型認知症の薬物療法を再考する(7)
食欲低下を示すアルツハイマー型への薬物療法

2015/12/18

 アルツハイマー型認知症では、食行動の変化が見られる場合が多いと思います。介護家族からしばしば相談を受ける内容の1つに「食べたことを忘れてしまい、何度も食事をするので困っている」があります。私の臨床経験では、何回も食事をするアルツハイマー型認知症患者さんの大半は、過食によって腹痛や嘔吐、下痢などの消化器症状を起こすことはないように感じています。ですから、上記の相談を受けた際には「患者さんの好きなように食べさせてあげてください」と家族に伝えるようにしています。

 食行動の変化で困るのは、異食と食欲低下だろうと思います。今回は、アルツハイマー型認知症に見られる食欲低下について考えてみたいと思います。


食べられないのか?食べないのか?
 アルツハイマー型認知症患者さんに食欲低下、食欲不振が見られた際、まず考えるべきことは、「食べられないのか」それとも「食べないのか」を見極めることです。食に対する関心はあるが食物が喉を通らない、食べたい気持ちがあるが食べられないときには、身体的疾患、器質的な原因がないかを検索することが重要です。

 例えば、無症候性ラクナ梗塞の出現によって嚥下機能の低下を生じているかもしれません。消化性潰瘍の発生によって食事ができないのかもしれません。認知症患者さんに見られる症状全てを認知症由来と考えず、まず身体的疾患を除外することを考えましょう。

 身体的原因の可能性が低いときは、患者さんが「食べない」のではと考えます。アルツハイマー型認知症では、病気の進行に従って発動性の低下が進みます。食に対する関心の低下や食行動を開始する動機の低下が見られます。さらに失行によって食べ方が分からなくなる場合もあるかと思います。


食べないときの対処の仕方
 発動性の低下などによって食行動を起こさない場合には、周囲の人々が摂食の介助をすることが原則になりますが、それだけではうまくいかない場合もしばしば見られます。認識の低下(失認)によって、白い茶碗の中の白米を茶碗の白色と区別できない場合があるかもしれません。そのときには白米にふりかけや海苔をかける、味付けごはんにするなどの工夫をすると食行動を開始する場合があります。

 嗅覚・味覚障害によって食物の味が分からない場合もあります。そのときには、味付けをやや濃くする、塩辛くするなどの工夫を行います。例えば、カレーライスはその香りや色合いなどで食欲を亢進させます。アルツハイマー型認知症では、カレーライスをしばしば好んで食べるようです。主食と副食を1つの皿に盛りつけるのもよいかもしれません。アルツハイマー型認知症では、注意障害のため、卓上に並んだいくつかの皿全てに注意や関心が向かないことがあるからです。箸の使い方が分からない場合には、スプーンの使用を勧めます。

著者プロフィール

川畑信也(八千代病院〔愛知県安城市〕神経内科部長)●かわばた のぶや氏。1979年昭和大医学部卒。国立循環器病センター、秋田県立脳血管研究センター、成田記念病院〔愛知県豊橋市〕を経て2008年より現職。愛知県認知症疾患医療センターセンター長も兼任。

連載の紹介

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