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第58回 アルツハイマー型認知症の薬物療法を再考する(5)
易怒性を示すアルツハイマー型への抗精神病薬の処方をどうするか?

2015/11/20

 アルツハイマー型認知症では、経過に伴い怒りっぽさ(易怒性)や暴言、興奮、不穏などの活発な周辺症状が出現あるいは増悪することが少なくありません。易怒性や暴言に対して、基本的な薬剤選択はメマンチン(商品名メマリー)で、感情や言動の安定化を図れることが多いと思います。

 メマンチンを使用しても前記症状の軽減が得られず、介護家族の負担が大きいときには、抑肝散などの漢方薬あるいは抗てんかん薬、抗精神病薬を使用せざるを得ないと考えています。漢方薬や抗てんかん薬であれば、比較的抵抗なく処方されるのだと思いますが、抗精神病薬に関しては、躊躇するあるいは嫌がる先生方が多いのでないでしょうか。

 確かに抗精神病薬には、錐体外路徴候(薬剤性パーキンソニズム)や嚥下障害など多くの有害事象が見られることから、不用意な使用は慎むべきとは思います。しかし、介護する家族の身体的・精神的負担を考慮すると、使用せざるを得ない場合も少なくありません。また、適切な使用を工夫することで有害事象の発現を抑えることも可能になります。今回は、認知症を専門とされない先生方が抗精神病薬を処方する際のコツと注意点を考えていきたいと思います。


どの時点で抗精神病薬を開始するか?
 開始の目安に明確な基準がないことは当然だと思いますが、私は2つの場合を想定して、開始の目安を定めています。

 1つ目は、患者さんが示す活発な行動障害・精神症状により、家族が在宅での介護に限界を感じて医師に相談に来たときです。介護を頑張ってきた家族がギブアップ寸前という状況は、身体的・精神的に逼迫した場合がほとんどです。早急に家族の負担を軽減するためには確実な薬効を期待できると推測される抗精神病薬を使用すべきかと思います。

 2つ目はメマンチンなどのように抑制系薬剤を使用したけれどもほとんど効果が見られない場合です。最後の選択肢として抗精神病薬を使用することになります。易怒性や暴言などに対して家族がまだなんとか我慢ができると思っているときには、抗精神病薬以外の抑制系の薬剤を選択することが原則であり、これらの薬剤を使用しても症状のコントロールを図れないときに初めて抗精神病薬の処方を考えます。


どの抗精神病薬を選択するか?
 抗精神病薬には、ハロペリドール(セレネース)やチアプリド(グラマリール)などに代表される定型抗精神病薬とリスペリドン(リスパダール)やクエチアピン(セロクエル)などの非定型抗精神病薬に大別されます。認知症治療においては、非定型抗精神病薬が原則です。抗精神病薬を使い慣れない先生方には、処方する抗精神病薬を1つか2つに決めて使い慣れる方法をお勧めしています。

 特に、非定型抗精神病薬の中でリスペリドンとクエチアピン、オランザピン(ジプレキサ)のどれかをしばらく続けて処方してみると、使い勝手が分かるのではないかと私は考えています。クエチアピンとオランザピンは、糖尿病患者さんには禁忌になっているので注意が必要です。糖尿病患者さんならびにその既往のある患者さんには、リスペリドンあるいはその他の非定型抗精神病薬を選択するようにします。チアプリドを使用してもよいと思います。

著者プロフィール

川畑信也(八千代病院〔愛知県安城市〕神経内科部長)●かわばた のぶや氏。1979年昭和大医学部卒。国立循環器病センター、秋田県立脳血管研究センター、成田記念病院〔愛知県豊橋市〕を経て2008年より現職。愛知県認知症疾患医療センターセンター長も兼任。

連載の紹介

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2020年、患者数が325万人に達するといわれる認知症。患者数の増加に伴い、認知症の診療におけるプライマリケア医の役割が大きくなっています。著者が遭遇した実際の症例を紹介しながら、認知症診療の「いろは」を解説します。
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