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第21回 この患者、どう診断する?その1
前日の夕食を全く思い出せない患者

2014/05/02

 今回から、事例を通じて認知症診療のコツを考えていきましょう。病歴と問診・診察から典型的なアルツハイマー型認知症と診断できる事例を提示し、診断の流れをみていきます。

 最初の事例は78歳女性です。夫に連れられ外来を受診してきました。

夫から病歴を聴取する
 はっきりわからないが、最近物忘れがひどくなってきた。もの忘れ外来を受診する1週間前、散歩に出かけた3時間後にパトカーに乗せられ帰宅した。行き先がわからなくなりあちこち歩いていたらしい。

 受診5日前には、さかんに着物を探しているので、理由を尋ねると「結婚式に出ないといけないから」との返事だった。夫は結婚式に参加する予定を聞いていなかったので「招待状は来たのか」と尋ねると、「招待状ではなく、数日前に電話で招待があったから」と答えた。

 タンスの中には数百万円の現金があったので、夫は患者さんに状況を尋ねたが要領を得ない返事だった。どうも何年にもわたり、自分の年金を金融機関から引き出してはタンスにしまい込んでいたらしい。夫が心配し、患者さんの通帳を預かったが、「あんたが年金を盗ったのだろう」と怒り出した。

 風呂場が滑りやすいので調べると、患者さんが天ぷら油をボディソープと勘違いし使用していることが明らかになった。

 その他の特徴的な行動としては、買い物で同じ物を何回も買ってくる、冷蔵庫内の食材管理ができず腐った食材が多い、季節にあった衣服の選択が困難である。

病歴から診断を考える
 病歴からは、散歩に出かけて3時間後にパトカーに乗せられ帰宅する、呼ばれていない結婚式に参加しようとする、不適切なタンス預金、天ぷら油をボディソープと間違えて使用するなど、年齢にそぐわない行動障害が目立ちます。さらに買い物や料理、整容に支障がみられていることは明らかです。78歳と高齢ですが、健常者では決してみられない行動や生活障害が頻繁に見られています。患者さんになんらかの頭蓋内疾患が存在していることは明らかで、認知症の可能性が高いと判断されます。

 図1は、私が開設するもの忘れ外来を受診してきた1649人のなかで50歳以上を対象に年齢層別に認知症の割合を示したものです。70歳代、80歳代では約8割が認知症と診断されています。物忘れを心配して家族が高齢者を医療機関に連れてきた場合、認知症に進展している可能性を常に考えながら病歴を聴取することが大切です。

著者プロフィール

川畑信也(八千代病院〔愛知県安城市〕神経内科部長)●かわばた のぶや氏。1979年昭和大医学部卒。国立循環器病センター、秋田県立脳血管研究センター、成田記念病院〔愛知県豊橋市〕を経て2008年より現職。愛知県認知症疾患医療センターセンター長も兼任。

連載の紹介

プライマリケア医のための認知症診療講座
2020年、患者数が325万人に達するといわれる認知症。患者数の増加に伴い、認知症の診療におけるプライマリケア医の役割が大きくなっています。著者が遭遇した実際の症例を紹介しながら、認知症診療の「いろは」を解説します。
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