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第13回 アシネトバクター感染症
やっかいなA. baumanniiについて知っておくべきコト
原田壮平(東邦大学医学部微生物・感染症学講座)

2011/09/14
原田壮平

 多剤耐性アシネトバクター(Multidrug-resistant Acinetobacter spp.:MDRA)の医療施設内アウトブレイクは、過去にも国内で散発的に報告されていましたが、2010年に発生した東京都内の医療機関における院内拡散事例の際には、大々的に報道されたこともあり、医療従事者のみならず一般市民にも注目される状況となりました。

 しかしながら、感染症を専門としない医師にとって、アシネトバクター属菌(Acinetobacter spp.)というのは、日常診療において馴染みのない菌ではないでしょうか。そこで今回はアシネトバクター属菌、なかでも臨床的に重要性が高いアシネトバクター・バウマニ(Acinetobacter baumannii )の微生物学的、臨床的特徴について概説したいと思います。

微生物学的な特徴
 アシネトバクター属菌は、ブドウ糖非発酵のグラム陰性球桿菌です。臨床検体のグラム染色においては脱色不良となりやすく、たまにグラム陽性菌と誤認されます(gram-variable)。また、双球菌状に観察されることもあり、慣れていない人にとってはその判別は困難です。

 アシネトバクター属菌には30以上の遺伝種(genomic species)がありますが、なかでも臨床的に最も重要度が高いのがA. baumannii です。その他のアシネトバクター属菌は、血流感染症などの侵襲性感染症の報告はありますが、A. baumannii と比較するとその臨床的位置づけは明確ではありません。

 細菌検査室では、分離株のグラム染色性と形態(球菌、桿菌、球桿菌)、物質の代謝などの生化学的性状を基に菌を同定しますが、そこで用いられている同定法ではA. baumannii と、Acinetobacter calcoaceticusAcinetobacter genomic species 3、Acinetobacter genomic species 13TUの3種の区別ができないことが知られています。よって細菌検査室からの報告では、これらの4菌種をすべて含めて「A. calcoaceticus - A. baumannii complex」(ACB complex)あるいは「A. baumannii 」と報告されています。

 ACB complexと報告された分離株のうち、自動同定機器にかけた結果、真のA. baumannii の占める割合は3割程度との国内報告もあります(参考文献1)。皆さんの施設で「A. baumannii 」と報告される菌は「真のA. baumannii 」ではない可能性がある、ということをぜひ知っておいてください(正確に同定するには遺伝子配列解析などが必要で、実際の臨床現場で全ての株に行うのは労力や費用の面から、少なくとも現在は現実的ではありません)。また後述する臨床的特徴なども、「真のA. baumannii 」と同定されたものだけを扱っているとは限らないことに注意してください。

臨床的特徴
 アシネトバクター属菌は空気中、ヒトの皮膚、便などからよく分離されますが、定着する頻度は菌種ごとに大きく異なります。

 ヒトの感染症の原因微生物として最も重要なA. baumannii は、通常の環境やヒトの皮膚に定着菌として存在する頻度は低く、主に院内感染症の原因微生物としてよく知られています。具体的には、以下のような危険因子を持つ患者による院内感染症が多いです。
・高齢である
・重篤な基礎疾患がある
・免疫不全や広範な外傷がある
・血管内カテーテルを挿入した
・人工呼吸管理を必要としている
・長期入院や抗菌薬の前投与をした

 院内感染症の種類としては、肺炎(人工呼吸器関連肺炎を含む)、菌血症(肺炎に伴うもの、あるいは血管内カテーテル関連菌血症)がよく知られ、手術部位感染症、皮膚軟部組織感染症、尿路感染症なども起こすことがあります。

 そのほかA. baumannii に関しては、以下のような報告があります。
(1)米国の調査では、集中治療室におけるアシネトバクター感染症の発症頻度について、夏季(7~10月)では他の時期に比べて1.5倍の頻度で認められた(参考文献2)。
(2)朝鮮戦争、ベトナム戦争、イラク戦争で負傷した兵士の皮膚軟部組織感染症や血流感染症の原因微生物として、A. baumannii が分離されたというエピソードがある。
(3)熱帯地方で起きた災害で、外傷と関連した感染症の原因微生物としてA. baumannii を考慮する必要がある。2004年の東南アジアを襲った津波で重症の外傷を受けた患者が感染症を発症した際、原因微生物がA. baumannii だった。また、2002年のバリ島で発生した爆弾テロで外傷を負った患者が、母国に避難帰国後に侵襲性感染症を発症したところ、原因がA. baumannii だったと報告された。

著者プロフィール

IDATEN(日本感染症教育研究会)●米国で感染症科フェローシップを修了した医師、国内の感染症専門医らを中心とした有志団体。感染症の実地診療が行える医師の育成・支援、セミナーの開催などを中心に活動する。

連載の紹介

「KANSEN JOURNAL」ダイジェスト
日本の感染症診療の教育や発展を考える有志団体「IDATEN」。その公式メールマガジン「KANSEN JOURNAL」を、非専門医向けにダイジェスト化。最新文献や、診療の基礎に関するレビュー、case studyなどを紹介します。

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