開業場所も決まり、内科診療所のオープンに向けて準備に余念のないO氏。勤務先の病院の上司や先輩に退職する意向も伝え、そろそろ自院のスタッフの採用について考え始めていました。
ある日の昼食時のこと。病院の食堂で一緒になった女性看護師から、O氏の新しいクリニックで働きたいとの申し入れがありました。O氏も日ごろから信頼していたスタッフだったので、渡りに船でこの申し入れを受けました。
待遇面に関しては、看護師が、病院でもらっているのと同額の給料と賞与を要望したので、O氏はこれを支払うことで了承しました。一方でO氏は、できるだけ費用負担を減らすために、(1)協会けんぽではなく医師国民健康保険へ加入すること(2)厚生年金ではなく、看護師自らの負担で国民年金に加入すること――などを求めたところ、看護師もこれらを了解しました。
開業後、経営が苦しいながらも、以前の勤務先の病院と同じ給料・賞与額を女性看護師に支給しました。ところが、開業した翌年の春に問題が起こったのです。それは、定期昇給額についてでした。
病院では看護師不足に直面していたため、引き止めを図る目的で給与のみならず昇給面でも厚遇されていたのです。一般的に事業規模が小さいクリニックでは病院よりも人件費が重くのしかかる上、O氏の診療所はまだ開業後まもないので、病院と同じ昇給条件を実現するのは到底できません。
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著者プロフィール
日本医業総研●医院・診療所の開業コンサルティング企業。関西地方を中心に、220件以上の開業支援実績がある。関西および関東でクリニックモールの企画・開発も積極展開している。

連載の紹介
開業の落とし穴
開業は一生の一大事。一方で、診療所の経営環境は悪化の一途をたどっています。開業地の選定や資金調達など、軌道に乗るまでに潜むさまざまな落とし穴を、過去に開業されたドクターの事例を基に紹介します。
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