30年近く昔、僕はプログラミングの話ばかりのコンピューターの授業に全く興味が湧きませんでした。ですが医師になり、基礎の研究室で出会ったマッキントッシュには、はまってしまいました。プログラミングは全く知らないままですが、コンピューターは今や日常生活にはなくてはならないものとなっています。もちろん、システムエンジニアは、私と同じコンピューターを持っていても、プログラミングの技術を駆使して、全く別次元の活用をしているのでしょう。
僕にはそんな光景と、今の漢方をめぐる混沌とした光景がダブって映るのです。「漢方を学ぶ」というと、「プログラミングからしっかり勉強しなさい」と言うかのごとく、漢方理論や漢方診療についての解説が始まり、最後は難解な言葉で書かれた「古典を読め」となります。ですが、僕たち西洋医はプログラミングを知らなくてもパソコンが使えるのと同じ感覚で、現代西洋医学で治らない訴えや症状に対して、保険適応のある漢方エキス剤を使用すればよいと思っています。
そんな漢方の使い方を、僕は「モダン・カンポウ」と呼んでいます。適切な漢方処方に出合うまでに少々時間がかかるかもしれませんが、患者さんと一緒に適切な漢方薬を探していくことを楽しめばいいのです。
とはいえ、モダン・カンポウを行っていると、“打率”を高めたくなることもあるはず。そのとき初めて、漢方理論や漢方診療を勉強すればいいのです。あたかも普通にアプリケーションを使っていた人が、より便利に使いこなすためにマクロやプログラムを勉強するように。
ちょうど新しい年度が始まりました。「これまでも漢方のエキス剤は使っているけれど、もう少し漢方をうまく使ってみたい」と考えておられるならば、漢方理論や漢方診療を学んでみるのはいかがでしょうか?
漢方の特徴は“あいまいさ”にあり
漢方理論を勉強するときに最初のハードルとなるのは、そのアナログ感です。われわれが学ぶ現代西洋医学は科学的で論理的です。近年では特定の遺伝子型、あるいは特定の臓器にのみ効果が発現するようになっている薬も珍しくありません。一方、漢方は必ずしも科学的ではなく、特定の臓器や症状にピンポイントに作用しません。ただし、その短所が実は長所でもあります。今の西洋医学で治らない症状や訴えに対し、ピンポイントに治療しないからこそ、「漢方薬でなんとなく治ってしまう」ことがあるのです。
また、漢方の世界ではいろいろな理論が並立します。そこを理解しないで、すべての漢方理論を網羅的に勉強しようと試みると一気に嫌気が差します。別にわれわれは漢方理論の研究者ではありません。漢方は手段にすぎないのですから、理解や納得ができないものはパスしましょう。処方選択の役に立つように取捨選択し、よりよい説明に出合えば適宜考え方を変えていけばいいのです。
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著者プロフィール
新見正則(帝京大外科准教授、愛誠病院漢方センター長)●にいみ まさのり氏。1985年慶応大卒。専門は末梢血管外科。98年帝京大第一外科講師、02年より同大外科准教授。10年より愛誠病院漢方センター長。

連載の紹介
【臨床講座】漢方嫌いだった外科医の漢方教室
西洋医学的なアプローチで十分な治療効果を得られないとき、漢方薬を使うとよい場合があります。現役外科医の新見正則氏が、“食わず嫌い”の医師向けに漢方の魅力とプライマリケアの現場で役立つポイントを紹介します。
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