昨今、世界で精神保健への注目が高まっている。例えば、2011年9月19~20日に「非感染性疾患:Non-Communicable Disease (NCD)」の国連ハイレベル会合が開催され、「NCDによる負担(Burden)と脅威は21世紀の開発における主要な課題である」(第1条)とする政治宣言が採択された(NCDについては、2011年9月13日「世界の流行トピック『非感染性疾患』と日本の貢献」の記事を参照)。
この会合では、心血管系疾患、癌、慢性呼吸器疾患、糖尿病の4疾患だけではなく、その他のNCD、とりわけ精神疾患の重要性について各国より発言が相次いだ。政治宣言の中にも、「精神および神経障害(アルツハイマー病を含む)はNCDによる負担の主因の1つである」(第18条)との条項が盛り込まれている。また、2012年1月のWHO執行理事会でも「Global burden of mental disorders and the need for a comprehensive, coordinated response from health and social sectors at the country level」として議題となり、5月のWHO総会で議論される見通しだ。
一方、日本国内でも、職場でのうつ病発症者の増加や高齢化に伴う認知症患者の増加などを反映し、精神疾患の患者数が2008年に320万人を超えるなど、従来の四大疾病(癌、脳卒中、急性心筋梗塞、糖尿病)の患者数を大きく上回っている。そのような状況を受け、各都道府県が策定する医療計画の中に、新たに精神疾患を加えて「五大疾病」とする方針が決まった(第19回社会保障審議会医療部会の議事録より)。これにより5つの疾病対策は地域医療の基本方針、具体的には2013年以降の都道府県別の医療計画に反映される。
こうした精神保健を取り巻く環境の変化を受け、今回は世界の精神保健の現状、WHOの取り組みを通じてその対策がどのような状況にあるのか、さらに日本は世界にどんな貢献ができるのかを述べたい。なお、本稿において精神疾患とは、精神障害・神経障害・物質使用障害(mental,neurological,and substance use disorder)を含む幅広い対象とする。
精神疾患が世界に与える影響
まず、精神疾患が世の中にどういった影響を与えているか、それを整理したい。「人が病気になること」が社会にどのような影響を与えるか、それを示す指標が3つある。「死亡数」「患者数」、そして死亡数と患者数を組み合わせた、「障害調整生存年 (Disability Adjusted Life Years: DALYs)」だ。DALYsは、死亡数と患者数、そして障害の重症度などを係数で調整し、「死亡により失われる年数」と「病気とともに生きる年数」を足し合わせて、「社会が受ける負担」を数字として算出したものだ。
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著者プロフィール
ジュネーブの国際機関に勤務する日本人職員が有志で集まり、持ち回りで執筆していきます。なお、本記事内の意見部分は筆者らの個人的見解であり、所属組織の公式見解ではありません。

連載の紹介
ジュネーブ国際機関だより
WHO(世界保健機関)やUNAIDS(国連合同エイズ計画)などスイス・ジュネーブの国際機関で日々議論されている世界の保健医療(グローバルヘルス)の課題を、現地の日本人職員がリアルタイムに日本の医療関係者に伝えます。
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